1. キラリと光る!中小企業
  2. 2019.03.11

キラリと光る!中小企業(第15回)
日本刀に込められた伝統技術と先端技術が融合した刃物で世界を驚かす。関兼次刃物株式会社


かつて、「五箇伝」と呼ばれる5つの地域が日本刀の産地として知られていた。大和(奈良)、山城(京都)、相州(神奈川)の3カ所に刀鍛冶が集まったのは、都で僧兵や武士が携えていた刀の需要に応えるためだ。消費地から離れるものの、出雲から良質な鉄が入手できる備前(岡山)も古くから有名だった。もう1カ所が、美濃(岐阜)だ。南北朝から室町時代に大和から移り住んだ刀匠は「関鍛冶」と称され、大量の刀を国内に供給してきた。

今回ご紹介するのは、関伝日本刀が持つ「折れず・曲がらず・よく切れる」という特徴を活かした刃物をつくる関兼次刃物株式会社。刀匠「兼次」の末裔である河村松次郎氏が大正7年に創業した刃物メーカーだ。

ずらりと並ぶ包丁に圧倒される中、ひときわ美しく輝く包丁に目を引き付けられる。
同社の100周年を記念してつくられた包丁「瑞雲」だ。

「当社が持つ技術の集大成にしたいという思いで2年ほどかけてつくりました。最高級のダマスカス鋼を使用し、日本刀を想起させる切れ味はもちろん、流れる雲のような刃紋にこだわっています。独特の模様は海外のお客様にも人気が高く、発売して間もなく、取引のなかったイスラエルやチェコの刃物店から注文が入りました」

そう話してくださるのは三代目社長を務める河村充泰さん。早速、刃物が日々生み出される工場を案内いただいた。

機械化で技術の伝承を助け、職人業を磨く

工場内には大型機械が並び、包丁の形に打ち抜かれた鋼が磨かれていく。刃先を薄く研磨する機械はコンピューター制御され、その精度は100分の1mm単位。十分な強度を保つよう正確に溶接すること、包丁のハンドルや溶接部を均一に研磨することも機械の仕事だ。
他社との差別化を図るためには、技術力とスピーディーな対応力が必要だと感じていた河村社長。しかし、職人技の伝承は難しく、時間がかかる。伝統技術を受け継ぎ、時代の変化に合わせた製品を生み出すにはどうしたらいいか。その問いに対するひとつの解が、工程の一部機械化だった。

「機械の方が上手くできそうな工程を見極め、実際に機械に作業をさせたときの仕上がりがすぐれていた場合、その工程は機械化によって技術の伝承に成功したと考えました。設備への投資を惜しまず、機器類を自社でカスタマイズすることでより使いやすくしています」



ただ、日本刀をルーツとする刃物づくりには職人の技術が必要とされる工程も多い。例えば、鋭い切れ味を生み出す刃付け。流れる水の上で丁寧に刃を磨くことで、刃物に熱がこもらず、硬度を下げない効果があるそうだ。細かな部分の研磨作業も社員の仕事。多様な加工技術を学ぶことで、社内全体の技術の向上を図っている。
工場を見渡すと、真剣に作業している社員の多くが若手だと気付く。

「伝統産業に根差す地方の一企業が2、30代の社員を採用できている理由は、先ほど見ていただいたように工程の一部を機械化したことにあると思います。知識や経験がなくても、刃物に興味があり、やる気さえあればすぐに仕事ができる職場なんです。現に、入社した社員の前職はバラバラです。やる気があって地域密着の会社で働きたいという若者が活躍の場を広げています」

売上半減の危機を乗り切るための独自の商品開発

日本刀の産地であった関市は、蓄積された技術を活かして刃物の生産地へと変貌した。戦後は、安価な洋包丁の輸出で経済復興を支えてきたが、1985年に転機が訪れる。同年、プラザ合意によって急速に円高が進行。海外売上が90%を占めていた関兼次刃物も大きな打撃を受け、突如として国内市場の開拓を迫られた。

「輸出品は低価格と量産が求められましたが、国内マーケットでは低価格より品質が求められる。日本のお客様はどんなものがほしいのか…これまで意識したことのなかった日本向けの商品を開発しなければなりませんでした。輸出の売り上げ減少に国内販売が追い付かず、売上が半減した年もあります。国内向け商品をつくるための設備投資も必要になり、苦しい時期が続きました。今、当社の売上は国内が90%です。内需に向けた転換が上手くいかなかったメーカーは次々と廃業に追い込まれました」



生き残るために磨いた開発力を活かし、同社ではOEMの製造も手がけている。

「昨年はテレビショッピング向けの製品も手がけました。アボカドの種ごとスパッと切る実演はインパクトがあったのかもしれません(笑)。瞬間的ではありますが、たくさんのご注文をいただき、現場はフル稼働でした。オリジナル商品の開発においては『他にはないものをつくりたい』という思いからスタートします。これまでは、私が企画段階から一貫して開発を担ってきましたが、社員が技術的な観点から意見をくれるようになり、頼もしく感じています」



美術品のような高級包丁から日常づかいの高性能包丁まで。同社が開発してきた商品は幅広いニーズを満たすことで選ばれてきたのだ。

伝統と独自の技術が融合して生まれる切れ味と耐久性

同社が生み出す刃物の最大の特徴は、鋭い切れ味。その鋭さを生み出すのは、ハマグリ刃と呼ばれる刃の形状だ。刃の断面を見ると、ハマグリのようにふっくらとカーブを描き、刃先に向かうほど薄くなっている。これは、骨や鎧を断ち切れるほどの鋭さと強度を備える日本刀の形状そのものであり、同社は日本刀に込められた技術を日常使いの刃物に反映させているのだ。

さらに、輸出用洋包丁の製造で培われたのは高い耐久性だ。刃先に細かな溝を刻む「マイクロデントギザ刃加工」を施された刃物は耐久性が増し、切れ味が半永久的に鈍らない。同社はギザ刃加工を施したカトラリーを開発。ふるさと納税の返礼品として高い人気を集めている。
https://www.furusato-tax.jp/product/detail/21205/338554

信念を持って世界中に関の刃物を届けたい

国内向け商品の開発でピンチを乗り越えた同社だが、アメリカとヨーロッパを中心とした海外進出にも挑戦を続けている。フランクフルトで開催される消費財の国際見本市「アンビエンテ」には13年前から出展し、昨年は家庭用品の展示会に参加するためシカゴに飛んだ。アリババを活用する理由も、同社の知名度を高め、世界中の方に興味を持ってもらいたいという考えからだ。

「当社にとって、今後取り組むべきマーケットはアメリカです。ただ、これまでは日系商社などを経由させた販売しかできていませんでした。アリババのネットワークを使って、小規模であっても直接取引できるアメリカの事業者とつながりたいと思っています。中国や東南アジアにも商圏を広げたいのですが、三食とも外食という食文化の国も多く、一般家庭向けの刃物の販売は地道に取り組まないといけないと思います」



昨年は、地元で開かれる『刃物まつり』の大廉売市に初めて参加した。人手不足から二の足を踏んでいたが、若手社員に呼びかけてみると積極的に準備をしてくれたそうだ。初出展ながら注目を集め、まつりに訪れたフィンランド、フランス、オーストラリアのバイヤーは新たな取引先となった。

「実際に当社の刃物を試していただくと、みなさん切れ味のよさに驚かれます。誰もが包丁やナイフを使ったことがあるはずなのに改めて驚かれるということは『これを日常で使いたい』と感じてくれるお客様に当社の刃物はまだまだ届いていないということです。信念をもって市場を少しずつ開拓し、当社の刃物を世界中に届けたいです」



さまざまなチャネルを通して潜在顧客にアプローチを続けている同社。世界中のキッチン、世界中の食卓に驚きをもたらす日に向けて、関兼次刃物の挑戦は続く。

関兼次刃物株式会社
http://www.sekikanetsugu.co.jp/

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岡島 梓/フリーライター

執筆者紹介文:

想いや考えを言葉で伝わる形にする、インタビュアー、ライター、リライター。
インタビューを中心とした記事の作成、キャッチコピーの開発、書籍の執筆・校正を通じ、伝えたいことを理解しやすく、表現に触れる方の心を損なわない形に再構築している。

早稲田大学第一文学部卒業後、東京地下鉄株式会社へ入社。人事業務に従事し、退職後ライターとしてのキャリアをスタート。近年は主に、地域で頑張る会社や事業、人々の魅力を伝え、求人や事業発展といった「はじまり」につながる記事を手がけている。

主な実績
・東京都・インキュベーションHUB推進プロジェクト
「イッサイガッサイ 東東京ものづくりHUB」記事執筆
https://eastside-goodside.tokyo/writer/50
・中小機構「TIP*S」キャッチコピー・理念等の文章化
https://www.facebook.com/tips.smrj/posts/1786551598034807
・江東ブランド2018 記事執筆(部分)
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・すみだの仕事記事執筆(部分)
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