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  3. 2019.04.17

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第21回)
「明日のお客さん」はどこにいるのか!(黒崎屋)


この連載の第17回で、常識破りに見える鮮魚店の話を綴りました。売り場面積がわずか3坪。取り扱うのは極上のそのまた極上の「一の線」ばかりで、鮭の切り身ひとつが2000円もするのに、この店を愛してやまない客が驚くほど多く、遠方からもやってくるほど、という内容でしたね。

専門の小売店舗が受難の時代にあっても、こうした「奇跡の鮮魚店」というのは存在するということをお伝えしました。

「奇跡の鮮魚店」、実はまだまだあるんです。今回お話ししたいのは、北陸・富山に店を構える「黒崎屋」。
今年(2019年)3月に場所を移転して、扱う商品の幅も広げ、リニューアルオープンしました。

移転まもない時期に、富山まで足を運んで、この店を訪ねてみましたけれど…いや、びっくりです。店舗の総面積は100坪程度と、それほど大きくない一軒なのですが、駐車場でクルマをさばいている警備員さんに尋ねたら(そもそも個人経営の店舗で警備員さんがいることにも驚いた)、「今日は1500台くらい、クルマが来るでしょうね」とのこと。つまり、1日の来店客が1000人単位ということですね。

午前と午後「2つのお客さん」

上の画像を見てください。刺身ひとつ買うにも、すごい数の、人、人です。これは確かに1日1000人を超えて来店しているな、という感じです。

まず、「黒崎屋」の前身である「黒崎鮮魚店」の話をさせてください。

この春の移転前、「黒崎鮮魚店」は、富山市の郊外、周りにはただただ田んぼが広がっているというような場所にあるごく小さなスーパーマーケットの、これまたわずかな一角にテナントとして入っている鮮魚店でした。パッと見、ただの魚屋さんです。

現在のご主人が東京の大学を卒業後、この家業を引き継ぐべく戻ってきたころ、年間の売り上げは1億円台半ばだったと言います。町はずれの小さな鮮魚店(それも小規模スーパーのテナント)と考えれば、それでも立派な売り上げと思いますが、ご主人がここから頑張った。

「変わらないと、生き残れない」

そう心に決めたといいます。そして、すぐさま動きます。まず何から?

「高く仕入れて、高く売るのは面白くない」

だから魚河岸で魚を仕入れるタイミングひとつ、他の小売店とは違う道を探りました。具体的には……たとえば1kg700円で競り落とされる場面では我慢して、同等に質のいい魚が半値近くまで下がるのを粘り待ちする。

次に考えたのは、誰を狙うか、にありました。

「プロ向けの料理屋卸と、一般のお客さんに向けたスーパー、その間をいく」

どういうことか。今から20年ほど前の当時、富山ではプロ向けはプロ向け、消費者向けは消費者向けと、各鮮魚店の位置付けは明確に分かれていたといいます。両方を兼ね備えた店は、いわば空白区でした。ならば、その両取りでいこうと、ご主人は決めた。朝から午前中は料理人を相手にし、昼下がりからは夕刻までは一般客を迎え入れるということです。さらに言うと、プロの料理人向けの業務は、既存の料理屋卸よりも丁寧な対応を貫こうと考えた。料理人の求めに細かく応じて、日曜や祝日にも動くという話です。

さらに、もうひとつ、決断して完遂したことがありました。

「市場で仕入れても、実際に店でさばいて『失敗した』と少しでも感じた魚は、ためらうことなく売り場から外しました」

これ、簡単に見えて、難しいことですよね。ただでさえ専門小売店が不遇な時代に、代替わりしたばかりの個人店が、そこまで徹底できるのか。コスト上、経営を圧迫しないのか。

「でも、そうしないことには、料理人からも個人客からも、信頼は得られない。失敗した魚をいさぎよく外すことが、ゆくゆくはプラスになる」

同時に、仕入れでの失敗を防ぐため(それはそうです。失敗続きだと店が倒れます)、仕入れる港を県内全域に広げました。ご主人がその足で通いつめ、港での信頼を勝ち得たと聞きました。

名だたる料理人が日参し始めた

いや、そうした判断、ひとつひとつを取れば、そんなものかと思われるかもしれませんが、そのすべてを当たり前のように徹底する(それも、1年や2年ではなくずっと)というのは、本当に大変なことだと感じます。でも、それをやり通すことで、答えはおのずと出始めます。

先代「黒崎鮮魚店」のころには、プロの料理人の顧客は2人ほどに過ぎませんでした。それがご主人に代替わりしたら、数年で30人を超えるほどになった。プロのクチコミというのには容赦ない厳しさがある一方で、高い評価もまた広がりやすいという話でしょう。いつしか、全国規模で名を轟かせるシェフや親方も日参するようになりました。わざわざ、富山市郊外の、スーパーの端っこにある小さな魚屋に……。

移転前の「黒崎鮮魚店」の売り上げ構成は、プロの料理人の購入が6割、一般客の購入が4割にまでなりました。ただし、一般客をないがしろにしたわけでは全くなくて、人数ベースで見れば、プロが1割、一般客9割です。トータルの売り上げは、移転前には4億円を窺おうかという水準にまで成長しています。つまり、今のご主人が帰郷したころの2倍どころではない。

ここで注目すべきはやはり、プロと一般客、それぞれに午前と午後の“二毛作”というような品揃えを徹底したところにありますね。朝から午前はプロの客ですから、丸のままの魚が売れます。そして昼からは、プロが購入しなかった魚を刺身にしたり焼き魚にしたりして、店舗に並べる。

念のために尋ねますけれど……。プロ向けの魚と、一般客向けの魚って、格が違うのですか。午後に店に並ぶのは、安くて格落ちのものだったりしますか。

「いえ、全く同じ格です。結果として午前中にプロが購入しなかったものを、午後に売る」

プロは、大きさが揃っているとか、あるいは今日こしらえたいメニューにかなうもの、つまり料理人の都合のもとで購入していきます。午前に彼らが買わなかったものだからといって、決して質が落ちるわけではないんですね。そう考えると、プロが買っていくものと同じレベルの魚を、ごく普通の消費者が難なく手に入れられる。そこがこの鮮魚店の、他にはまずない強みなのだと感じさせます。

野菜も、そして、とびきりの肉も

前置きがずいぶんと長くなってしまい、失礼しました。ここからが新生「黒崎屋」の話です。

ご主人には長年の夢があったといいます。

「魚だけではない。この地域には頑張っている農家もいれば、美味しい肉を育んでいるファームもあります。そうした産品を選りすぐって集結させた一軒としたい」

そして今年3月、もともとテナントとして入っていたスーパーから独立した場所に、「黒崎鮮魚店」改め「黒崎屋」を移転オープンさせました。

鮮魚店時代から客は多くついていたとはいえ、「黒崎屋」に生まれ変わった直後から、予想をはるかに超える来店数があるそうです。

私自身、新装なった店舗を覗いてみて、驚きや発見がいくつもありました。

ただ単に、いい野菜や加工品が並んでいるだけではなくて、なぜそれを仕入れたのか、料理店のメニューや一般家庭の食卓にどう活かせばいいのか、文字通り事細かに、手書きで説明が添えられています。野菜や卵であれば、その調理法が簡潔に記されてます。米には栽培方法も綴られてありました。また地元産のプリン2種類は、ただ両者を並べているだけではなくて、それぞれの舌触りの違いまで書かれている。

これ、とても大事なことです。ただ単に「地域のいいものを集めました」と掲げても、それはお題目に過ぎないと感じる客もいるでしょう。「なぜ(仕入れたのか)」「どのように(使えばいいのか)」を伝えてこそ、それらの産に息吹きをもたらし、商品として光るんです。そのことを改めて学ばせてくれる店舗構成でした。

そうした店舗演出(いや、演出というより説明責任を果たすと言ったほうがいいかも)は、やはり効果的で、「これを今日は買いたい」という目的が明確になくても、ぶらりと訪れて数々の食材や加工品を眺めて廻るだけで、それが楽しいひとときとして成立します。だから、目的がはっきりしているプロの料理人だけでなく、一般の客を惹きつける空間となっている。「こんなの、あったんだ」と地元客ですら目を奪われる品揃えとなっているのは、つまり、多彩な強い商品を並べているからだけではなくて、多彩で強いことを伝えきっているからでもあるわけですね。

店舗の一角には、この地域で名声を得ている超実力派のファームが精肉とソーセージなどを販売するスペースも取られていました。「黒崎屋」のご主人が直接に交渉して、入ってもらったと聞きました。

「富山の料理人は、これまでウチに寄って魚を仕入れ、その前後にこのファームの直営店で肉を仕入れる、という方が少なくなかった。ならば、ここ1カ所で両者を購入してもらえれば、と考えたんです」

その気持ちに応えるように、このファーム、料理人たちが訪れる朝から午前までは、ここ「黒崎屋」に代表みずからが詰めて、注文の対応に当たっています。

生産者にも考えてもらう態勢を

さらに興味深かったのが、野菜を並べているコーナーでの話です。

野菜は地元農家から直接届けてもらう態勢を取っているそうなのですが、ひとつ、ここに仕掛けを講じているとのこと。

天井からカメラを吊り下げていて、どの野菜がどれくらい売れているか、また品切れとなっているか、生産者が「黒崎屋」まで足を運ばずとも、その状況をリアルタイムでスマートフォンなどから確認できるようにしました。

「これで、農家の人は、『あっ、意外にこれが売れているんだ』『品切れだから、今から補充しに行こうかな』などと考えることができます」

私、この仕組みは大きいと感じましたね。というのは。農家の人たちも、経営リソースを単に生産だけにつぎ込むだけでは済まなくなった時代であると思うからです。作物を生産する人自身が、何が売れるのか、どうすれば売れるのかを考えるべき段階に入っている。

「黒崎屋」が興味深いのは、こうした点にもあります。農家が売り方や伝え方に思いを巡らせるためのきっかけを提供しているということです。

さらに言うと、この店内には、先ほどから触れているように加工品も多い。プリンのほか、ドライフルーツやパンなども並べられています。

「この『黒崎屋』を、生産者たちが6次産業化をなした後の次の一手を考えるための拠点として使ってほしい」

「黒崎屋」のご主人は、そうも語っていました。分かります。6次産業化って、全国各地で推進されている割には、答えを出せた産品はそう多くない。だからこそ、産品を育て、きちんと伝える拠点が要るのですね。

若い消費者が訪れている意味

3月のオープン以来、予想を超える来客があることは、冒頭でお話ししました。「黒崎屋」の2019年度の売り上げ予測をご主人に尋ねると、5億円超が現実ラインとして見えてきたといいます。旧「黒崎鮮魚店」時代から、さらに1億~1億5000万円ほどの上乗せとなるという話です。

新しい「黒崎屋」となっても、プロの料理人は足繁く通い、そこにさらに一般消費者が増えたちいうことですね。さらに言うと、こんな現象もあるらしい。

「移転してから、お客さんの年齢層に変化が起きました」

30代の来店客が増えたといいます。これは興味深いところ。

大都市圏に限らず、地方都市でも、食関連のイベントはしばしば催されます。ただし、盛り上がるのはそのイベント開催時だけだったりもする。

でも、この「黒崎屋」が連日賑わい続けているということは、ごく普段から食に関心を示す消費者層が増えているという話に他なりません。それも、田んぼに囲まれた、クルマでなければまずたどり着けないようなこの店に、わざわざ足を運ぶというわけですからね。

プロと一般客の両取り。そのための仕入れ作業の徹底。さらには新店舗での強力な商品ラインナップ化。そして生産者の改革心を刺激する仕掛け……。

幾重にも心を砕いたかからこその、異例の繁盛ぶりなのだと感じました。

最後に……。「黒崎屋」は、ご主人である夫が魚の目利きを担い、妻が野菜や加工品などの品揃えに携わっていると聞きます。ここはご夫婦2人の力あっての一軒でもあるんです。個人経営を底流とした小さな専門店も、やり方次第で道は切り拓ける。そう強く感じた取材でした。

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北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

Introduction

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