1. 経営全般
  2. 2019.05.08

時代の変化に備えよ!中小製造業必携の書、ものづくり白書を読み解く


皆さんは、「ものづくり白書」の名前を耳にしたことはおありでしょうか。

「ものづくり白書」は、別名を製造基盤白書ともいい、「ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告」の通称です。毎年、政府がものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策をまとめ、WEB上で全文が公開されているほか、紙冊子版も販売されており、書店でも入手可能です。

この白書の作成にあたっては、中小企業政策に関わりの深い経済産業省だけでなく、厚生労働省、文部科学省の2つの省も加わっています。
2018年度版ものづくり白書では、3省が初めて合同で「総論」を掲載し、ものづくり企業のトップに対し、「大規模な環境変化へ対し、危機感を持つべし」と訴えたことが話題となりました。

第1部では、経済産業省が「第1章 わが国のものづくり産業が直面する課題と展望」、厚生労働省は人材面を取り上げた「第2章 ものづくり人材の確保と育成」、文部科学省は技術開発面に焦点をあてた「第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発」の章を取りまとめています。

ものづくり白書の役立て方

ここまで読むと、「小難しい政策の話ばかりが書かれたものか」と思われるかもしれませんが、ものづくり白書は中小製造業の経営者にとって役立つ情報が詰まっています。
日本の製造業が抱える共通の課題や、その対応策などの傾向といった情報は、経営者にとって経営方針策定の大きな手掛かりとなるでしょう。

また白書内の「コラム」には、課題解決に取り組んだ企業の先行事例が150事例も掲載されています。自社と業種が似た企業の取り組みを知ることで、自社に取り入れるべきアクションを見つけることができるでしょう。ものづくり白書のWEB版には、コラムを検索するための「コラム目次」も用意されています。

2018年度版ものづくり白書が警鐘を鳴らす「危機」とは

近年、日本の製造業は、市場環境、産業構造の急激な変化に見舞われ続けてきました。そのなかでも2018年度版のものづくり白書で大きく取り上げられている「変化」は、製造業における競争の変化です。市場における競争の構造が「『モノ』自体の品質や価格、納期を競うもの」から「『モノ』を通じて提供する価値を競うもの」へと変化しているのです。

白書は、こうした大きな変化に対し「我が国のものづくり産業が十分に即応できていない」と警鐘を鳴らしています。そこで、製造業の経営者が持つべき危機感として挙げられているのが、以下の4つです。

1. 人材の量的不足に加えて質的な抜本変化に対応できていないおそれ
2.  従来「強み」と考えてきたものが、変革の足かせになるおそれ
3. 経済社会のデジタル化等の大変革期を経営者が認識できていないおそれ
4. 非連続的な変革が必要であることを認識できていないおそれ


以下、4つの危機感について細かく見ていきましょう。

1. 人材の量的不足に加えて質的な抜本変化に対応できていないおそれ

日本の労働力が減少していくなか、人材活用は製造業にとって必須の課題となっています。採用によって人数不足を補うだけではなく、1人あたりの生産性向上や、そのための人材育成は必須といえます。

また、製造業で働く人材に必要とされるスキルセットが大きく変化していることに留意が必要です。一例として、産業用ロボットや IoT※を活用するために必要となる「デジタル人材」や、製造業の変革期におけるトレンドを理解し、全社的・抜本的な構造改革を行うための「システム思考」ができる人材は圧倒的に不足しています。

近年はクラウド型サービスなど、中小製造業でも導入しやすい価格帯のITツールも数多く登場してきました。これらのサービスやソフトウェア等を積極的に活用し、現場の生産性を高めることで、人材不足を補いつつ、さらに付加価値の高い業務に集中できる職場環境を整備することができます。これらのツールを使うための知識・スキルの必要性を認識し、社内人材向けに学習環境を用意したり、知識を持った人材の採用を進めたりすることが必要です。

※IOT:Internet of Thingsの略語。モノのインターネット、情報機器端末だけでなく、家電や住宅設備といったさまざまな「モノ」がインターネットに接続され、相互制御・情報交換などを行う仕組みのことを指す。

2.  従来「強み」と考えてきたものが、変革の足かせになるおそれ

企業間の競争においては、従来競争優位を生み出す源泉、すなわち「強み」であった経営資源が、新しい競争環境に適応するための「足かせ」となってしまうことが多くあります。

これまで日本の製造業は、製品の企画・開発段階から、取引先企業と綿密なすり合わせを行うことで、取引先からの信頼と高い満足度を勝ち得てきました。
しかし裏を返せば、取引先のニーズを満たすことに注力した結果、「『モノ』を通じて提供する価値を競う」時代において、消費者のニーズを把握する能力や企画開発能力を育成する機会を失ってきたとも言えます。

また、取引関係が足かせとなり「サプライチェーンの上流・下流工程と歩調を合わせない限り、自社単体で改革を断行することは難しい」という企業も少なくないでしょう。改革によって部分最適を脱却し、全体最適を実現するためには、現場の人員任せではなく、経営層自らが陣頭指揮をとり、改革に取り組むことが必要です。

3. 経済社会のデジタル化等の大変革期を経営者が認識できていないおそれ

デジタル化を含む技術革新によって、良い製品の類似製品を生産することは、世界のどこでも難しいことではなくなってきました。これにより、消費者が「モノ」に対して感じる価値は低下しつつあり、反面、モノが提供する「体験」に対して消費者は高い価値を感じるようになっています。製品を活用したサービスやソリューションを提供することが、価値獲得の鍵となってきたのです。

このような大変革期と呼べる状況において、他国の企業はバリューチェーンの最適化や、自社のビジネスモデルの転換にまで踏み切っています。一方の日本企業では対応が遅れており、市場の変化がもたらすインパクトが充分に理解されていないおそれがあるとし、白書は「将来の致命傷となりかねない」と強い危機感を示しています。

4. 非連続的な変革が必要であることを認識できていないおそれ

前項で触れた、市場の大幅な変化に対応するには、これまでの成功体験の延長ではなく、従来とは全く異なる考え方を基にした改革、つまり「非連続的な改革」が必要となってきます。しかし、そのようなリスクを伴う抜本的な改革に取り組んだ経験のある経営者は少なく、非常に難易度が高いといえましょう。

また、技術革新のスピードが増す中、すべての課題を自社のみで対応するのは難しくなってきています。他社をはじめとした外部資源を活用し、自社の資源を、競争の源泉である「価値」の創出・提供に集中していくことが求められています。

まとめ

ここまで、2018年度版ものづくり白書のポイントのうち「4つの危機」についてご紹介してまいりました。
毎年発行されるものづくり白書は、大きな変化の渦中にある製造業にとって、時流や課題の把握に役立つ示唆に富んでいます。ぜひ一年に一度、ものづくり白書に目を通してみてください。

「2018年版ものづくり白書イラスト」はこちら (出典:経済産業省ウェブサイト)

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狩野 詔子/株式会社プロデューサー・ハウス

執筆者紹介文:

株式会社プロデューサー・ハウス ライター、コンサルタント
大阪府中小企業診断協会 観光・サービス経営研究会 代表
サービス業・観光業における生産性向上を専門とするコンサルタント。
ヤマハ株式会社、デロイトトーマツコンサルティング合同会社にて、製造業の国内外拠点における業務改善プロジェクトに多数参画。
現在はテーマパーク運営企業にて飲食部門・バックオフィス等の業務効率化を手掛ける。

共著「一人ひとりの『働き方改革』講座」(日本マンパワー株式会社)
執筆記事「サービス業で使える!生産性を上げる『カイゼン』テクニック5選」、
「サービス業のマーケティング入門!自社の『7P』を把握しよう」
(中小企業庁ポータルサイト「ミラサポ」)ほか多数。

お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
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Mail:info@producer-house.co.jp

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