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  3. 2019.05.15

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第22回)
後発の他社に追いつかれたら、どうする!?(ホワイトローズ株式会社)


まず、このすぐ上の画像をご覧ください。ビニール傘であることはすぐにおわかりになりますね。でも、ただのビニール傘ではありません。この連載コラムでわざわざ取り上げるくらいですから……。

このビニール傘、昨年(2018年)の発売以来、生産がずっと追いつかないくらいの注文が殺到して、今も品薄状態を続けているといいます。なぜそこまでの人気なのかは後からお伝えするとして、最初に、バックオーダーが数多くあるほどになっているこのビニール傘の値段はいくらなのかを当ててみていただけるでしょうか。

普通のビニール傘ですと500円ほどでしょうか。では、この商品は?

税別で1万4000円なんです。はあっ!?と驚くような値付けですね。それでも先に触れたように、注文がひっきりなしに集まってくる。さらに言うと、この商品、一般発売に先駆けて昨年(2018年)にクラウドファンディングで生産プロジェクトを公開したのですが、集まった金額は461万4000円。当初目標額の922%獲得を達成しています。

いったい何なんだ、という話に思えてきますね。どこのどんな企業が、このビニール傘の製造販売を思い立ち、なぜまたこれほどの注目を浴びているのか。順を追ってお話ししていきましょう。

すでにありそうで、実は…

このビニール傘、その商品名は「AmeMachi(アメマチ)」といいます。

これ、上の画像が示しているように、折りたたみ式のビニール傘なんです。ビニール傘でしかも折りたたみ式という商品は、海外製品などでごく一部ありましたが、綺麗に折りたためないなど使い勝手が今ひとつのため、一般的な存在ではなかったですよね。

そこに、日常の実使用に耐えうる商品を投入したというのが、今回の話です。

この「AmeMachi」をゼロから開発したのは、東京の下町である田原町に拠点のあるホワイトローズという企業です。同社の名を聞いて、ピンときた人もいらっしゃるでしょうね。

同社は1721年に武田長五郎商店として創業。先代社長が1952年に世界で初めてビニール傘を開発しました。そもそもがビニール傘の先駆者だったわけですね。そして今回、10代目である現社長が、折りたたみ式のビニール傘をものにしたということ。

社長に尋ねたら、この「AmeMachi」の完成までは、実に3年以上もの期間を要したらしい。なぜか。

「まず、うちが作って売るからには、万が一の場合に修理対応できるものでないといけない。これまでの商品がそうでしたからね。長い期間使っていただけるというだけでなく、もしものときに修理できるような構造でないと」

そうなんですね。同社のビニール傘は、急場しのぎで使って終わり、ではなくて、長く使うためのビニール傘であるというのが、確かに大きな特徴でした。

「そしてもうひとつ。誰もが綺麗におりたためることが重要と考えました」

ここが最大の難所だったそうです。ごくわずかに存在する既存の折りたたみ式ビニール傘は、そこが泣きどころでした。ちゃんと折りたためないのであれば、折りたたみ式の意味をなしませんよね。

で、どういう結論を導き出したのか。透明なビニール素材というのはそもそも折りたたみ線が消えやすい性質を持っているそうです。つまり、そのままでは、ちゃんと折りたためない。

「折りたたむ線に沿って、ビニールにエンボス加工を施しました。これなら誰もがごくごく簡単に折りたためます」

これ、そんなに容易な工程ではないようですよ。加工の仕方に妙があると聞きました。

市場性は必ずあると踏んだ

その結果……。この上の画像にあるように、日常使いを続けても、簡単におりたためるというビニール傘が完成しました。でも、ですよ。

1万4000円もする折りたたみ式ビニール傘が、予想を超える注目を集めることを開発当初から確信していたのでしょうか。

「単純に言えば、ニーズはあると踏んでいました。国内の大都市圏では、売れ筋の傘の7割がたが折りたたみ式であるというデータがありましたから」

とはいえ、布張りではなくてビニールですよね。ビニール傘に1万4000円を支払うという人がこれだけいるとは……。

「透明なビニール傘には『安心、安全』という特色があります。前を見通せますから。そこに、丈夫で、かつ、修理にも対応するので長く使えるという長所も加われば、振り向いてくれる消費者はいると考えました」

なるほど。確かにこの「AmeMachi」は、デザインも可憐ですし、親骨はグラスファイバーで、握り手は桜の天然木と、品質に考慮した商品であることはすぐに伝わってきます。さらに、張ってあるビニールには小さな穴(通気弁)が開けられていて、雨は通さないけれど風を通すため、強風下でさしていても傘がおちょこ状態になりにくいという強みも備わっている。これは同社のビニール傘開発の歴史のなかで培われた技術です。今回の「AmeMachi」にも、その技術が反映されているのですね。

「そんなバカな」の歴史だった

さあ、今回の話で真にお伝えしたことは、実はここからなんです。

ホワイトローズが世界初のビニール傘を戦後間もない時期に開発したことはすでに触れました。そこから今回の「AmeMachi」のヒットに至るまで何があったのか、という話です。

世界で初めてビニール傘を作ったのは1952年。ちなみに、すぐ上の画像は、同社の手になる世界初のビニール傘の初期モデルです。今も現品を残しているんですね。

同社の動きを眺めていた傘業界からの反発は、相当に凄まじかったようですよ。

「『傘にビニールを張るなんて!』という批判が業界内から沸き起こったんです」

業界の既存企業にしてみれば、常識外れもいいところだったんですね。しかしながら、ビニール傘はその利便性から、多くの消費者が歓迎し、幅広く受け入れられました。

するとどうなるか。当然のことですが、他社が追いかけてきます。類似品がたくさん出回ることになりますね。そのうち知的財産権の期限も切れます。国内はもちろん、海外のメーカーがより安価な商品を出してくる。だんだんと儲からない商品分野になっていきます。

先駆者としては、ここでどうするか。重要な判断を迫られるわけです。

「道は2つですね。1つは低価格競争のなかで生きていくことを決断する。もう1つは機能やデザインといった、価格面以外のところを探求する」

ホワイトローズが選んだのは後者でした。つまり、廉売競争に巻き込まれないようにするため、より高機能なビニール傘を開発し、消費者に手に取ってもらう、という道でした。

「どちらの道が、いい、悪い、ではないんです。いずれを選ぶかを鮮明にして、しかも途中で道を変えないことが大事なんです」

低価格訴求でいくなら、とことん低コスト戦術をとる。そうではなくて付加価値志向でいくなら、その時代の潮流に寄り添いながらも他社が追いかけられないほどの機能提案をなしていく。要はブレずにどちらかを突き進むということなのですね。

「付加価値志向でいくことを決めたにしても、不安はつきまといます。でも、突っ張ってでも進まないといけない」

そのときの唯一の味方は「お客さま」なのだともいいます。流通企業のバイヤーの目ではなく、消費者をきちんと意識できるかという話。

ただし……。ここで念押ししたいことがある、とも、社長は言いました。

「お客さまの希望通りに商品開発する、という話ではないんです」

どういうことか。

「お客さまの希望を超えるものを作る。この意識が大事です」

とてもよく理解できます。少し前の時代までは、お客さま重視といえばつまり、お客さまの声を反映した商品作りを心がけるということと解釈されてきました。でも、それが商品のヒットに繋がるとは決して限らないということは、徐々に判明してきていますね。

「お客さまご自身も『本物とは何か』を模索するとともに、正解は何であるかを不安に感じている傾向があります。だからこそ、素人であるお客さまの声を超えたものを作って提示する必要があるわけです」

プロとはすなわち、そういうことなんですね。もっと言えば、ものづくりの世界がプロダクトアウト型(消費者の声に合わせて商品を開発するのではなく、企業側が消費者の表立った意向をも超えた商品をみずから提案する)に回帰しているのには、こうした背景があるということでしょう。

やっぱりプロはすごいね

そうしたプロダクトアウト型のものづくりは、2つの成果を生む可能性が高いとも表現できます。

まず1つは、前に触れたように、後発のライバル企業を再度引き離せること。もう1つはというと……。

「お客さまから『やっぱりプロはすごいね』という評価をいただけることでしょう」

その評価こそが、社の売り上げを増やし、存在感をも高めるというわけです。プロダクトアウト型の商品には「商品を通して消費者をびっくりさせる」という効果が期待できますしね。

「その『びっくり』ですけれど、商品を目にした一瞬だけ驚かせるのではいけない、と私は思いますね。じわじわと驚かせる、つまり、使っているうちにわかる驚きが重要と思います」

なるほど、そうですね。使ってこそわかる「びっくり」は、それこそ顧客満足にもクチコミの誘発にも直結する要素です。

ホワイトローズは、業界の反発をものともせずにビニール傘を世界で初めて開発し、1980年代には数千円する高級ビニール傘である「カテール」を大ヒットさせています。この「カテール」は政治家が選挙の折にこぞって愛用し、のちには皇室にも納められました。そして今回の「AmeMachi」の登場です。

1952年から今に至るまで、ホワイトローズは「後発組に追いかけられては、また突き放す」という歴史の繰り返しだったことがよくわかりました。そこからは先駆者の矜持も感じられますし、なにより、一度決めた道を進み続けるにはどのような姿勢が必要なのかを痛いほど理解できました。

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北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

Introduction

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