1. 経営全般
  2. 2019.05.22

ものづくり白書が訴える、製造業が向き合うべき2つの課題とは?


今回の記事は、ものづくり企業の必携の書ともいえる「2018年度版のものづくり白書(以下、ものづくり白書)」を読み解く記事の後編です。

前回の記事では、以下の2点についてお伝えいたしました。

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近年、製造業は急激な環境変化にさらされており、競争構造も「モノの品質や価格」を競うものから「『モノ』を通じて提供する価値」を競うものへと、大きく変化してきているという点

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このような大きな変化に対し、白書では「日本のものづくり産業が十分に即応できていない状態であり、危機感を持つべきである」と警鐘を鳴らしている、という点

では、これらの変化を認識し、危機感を持ったうえで取り組むべきことは何でしょうか。白書では、取り組むべき事項として「2つの課題」が提示されています。

課題A:人手不足への対応、デジタル人材の確保
課題B:新たな環境変化に対応した付加価値獲得

これら2つの課題について、それぞれ詳細を見ていきましょう。

課題A:人手不足への対応、デジタル人材の確保

多くの日本の製造業では「人手不足」が避けては通れない深刻な課題となっています。

人材確保の状況に関して尋ねたアンケート結果について、2017年・2016年の結果を比較してみましょう。(図1)
人材確保について「特に課題はない」という回答が約19%から約6%へと大きく減少(-13%)している一方、「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている」との回答が約23%から約32%へと大きく増加(+9%)しています。

このことから、昨年に比較しても人材確保の課題が、多くの企業で顕在化してきていることが分かります。

図1. 人材確保にどれほど課題感を感じている企業は増加傾向

出典:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun_pdf/pdf/honbun01_01_01.pdf


具体的に、人材確保が難しいと考えられている「人材の種類」としては「技能人材」が突出しています。(図2)
なお、規模別では中小企業ほど技能人材の確保に苦労しており、大企業は中小企業よりも「デジタル人材」の確保に課題感を抱えています。

図2. 人材確保が課題であると考えられている人材のタイプ

出典:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun_pdf/pdf/honbun01_01_01.pdf


デジタル人材の確保については、業界を問わず日本全体で質・量ともに不足傾向にあります。アンケート結果によれば、デジタル人材を「質・量とも充足できていない」という回答が77.4%と、全体のおよそ3/4を占めています。(図3)

特に大企業においては、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」への対応や、人手不足解消のための施策として IT・IoT を活用した業務合理化・効率化を推進する動きが進んでおり、これら施策を実現していくためには、IT・IoT 等の技術を使うことができる人材、すなわち「デジタル人材」の確保・育成が必須となります。

このトレンドは大企業のものだけではありません。大企業に比べて1年遅く、2020年4月より「働き方改革関連法」の残業時間上限規制の適用がなされる中小企業にも波及してくるでしょう。

図3. デジタル人材の不足感

出典:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun_pdf/pdf/honbun01_01_01.pdf

課題B:新たな環境変化に対応した付加価値獲得

人材不足に次ぐもう一つの課題は、「モノ」の付加価値が問われる時代に対応し、「付加価値の創出・最大化」に取り組まねばならない、という点です。

冒頭で触れたように、近年、製造業の競争構造は大きく変化し、「モノ」自体の品質や価格、納期を問われてきた時代から、「『モノ』を通じてどのような価値を提供するのか」が問われる時代へと変化してきました。

付加価値の提供のためには、顧客が何を欲しているのか、顧客ニーズを把握する必要があります。しかし、そのためには、顧客データの利活用が必須となります。データこそが、これからの時代の付加価値の源泉といえるでしょう。

その代表例といえるのが、自動車産業です。自動車産業においては、現在、つながる(Connectivity)・自動化(Autonomous)・利活用(Shared & Service)・電動化(Electric)、の頭文字をとった「CASE」がメガトレンドとなっています。

従来の自動車メーカーは、ただ品質の高い「自動車(モノ)」を生産・販売するだけの企業ではなく、「自動車を利用することで享受できる、各種のサービス(付加価値)」を提供する企業へと変貌しつつあります。特に「つながる(Connectivity)」の領域では、運転状況や道路の混雑状況などのビッグデータ収集・活用が進んでいます。

このような変化に対応し、企業内でデータの利活用にかかる戦略や計画を主導する部署は、製造部門から経営者、経営戦略部門へとシフトしつつあります。(図4)

図4. データの利活用を主導する部門はどこか

出典:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun_pdf/pdf/honbun01_01_01.pdf


データを使いこなせる組織を作り上げるためには、「経営層による利用目的の明確化」や「共通認識の醸成」、経営戦略的な視点を持ってデータ利活用を実行に移せる「人材の確保」などが必須条件となってくると考えられます。

ここでも、データの利活用を通した付加価値の創出・最大化に取り組むためには、収集したビッグデータを分析したり、分析結果を利活用したりすることができる「デジタル人材」が不可欠となることが分かります。

鍵は「現場力」と「コネクテッド・インダストリーズ」にあり

これら課題の解決策として白書で提示されている方向性が、以下の2つです。

対応策A:デジタル時代の「現場力」の再構築と、それを実現する「経営力」の発揮
対応策B:コネクテッド・インダストリーズの推進による付加価値の創出

これら2つの対応策についてご説明しましょう。

対応策A:デジタル時代の「現場力」の再構築と、それを実現する「経営力」の発揮

人材不足の状況下で必要となる対策は、従来の職人技やカンといった暗黙知を体系化・形式知化し、企業の資産として整理し、引き継いでいくことです。
また、デジタルツールなどを活用し、自動化・省人化、ひいては「働き方改革」を推進することも、社員が付加価値の高い業務に注力できる環境の整備に繋がります。
現状、デジタルツールを活用できる人材について「費用対効果が見込めない」「自社の業務に付加価値をもたらすとは思えない」といった理由で採用・育成が充分行われていない企業が多くあります。この対応策を実現するには、経営者自らが経営課題の陣頭指揮をとること、すなわち経営力の発揮が必要である、と白書は説いています。

対応策B:コネクテッド・インダストリーズの推進による付加価値の創出

「コネクテッド・インダストリーズ」とは、2017 年3月に「我が国の産業が目指す姿」として発表されたキーワードであり、「データを介して、機械、 技術、人など様々なものがつながることで、新たな付加価値創出と社会課題の解決を目指す産業のあり方」を指します。
データを活用し新たな価値創出を目指すコネクテッド・インダストリーズの考えに基づく取り組みは、日本のものづくり企業が取り組むべき方向性として強化が期待されています。

コネクテッド・インダストリーズの実現に向けては、なんでも自社でやる「自前主義」から脱却し、外部資源とつながり、連携していく視点が必要となります。こうした視点を得るためには、全体最適な戦略を練る思考や、ビジネスを設計していく力を持つ人材の充実を図る必要がある、と白書では提言されています。

いずれの対応策においても重要となるのは、従来型の「ボトムアップ」での改革ではなく、経営主導、すなわちトップダウンでの改革が必要であるという点です。景気が回復傾向にあり、余力のある今こそ、経営者自らが危機感を持ち、目の前の課題に対しての解決策、変革への対応策を提示し、進めていくことが求められているのです。

まとめ

ここまで、前回の記事に引き続き、2018年度版ものづくり白書で提言されている「課題」とその解決のための方向性をご紹介してきました。
毎年発行されるものづくり白書は、大きな変化の渦中にある製造業にとって、毎年のトレンド、大局的な課題の把握に役立つ示唆に富んでいます。
ぜひ一年に一度、ものづくり白書に目を通してみてください。

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狩野 詔子/株式会社プロデューサー・ハウス

執筆者紹介文:

株式会社プロデューサー・ハウス ライター、コンサルタント
大阪府中小企業診断協会 観光・サービス経営研究会 代表
サービス業・観光業における生産性向上を専門とするコンサルタント。
ヤマハ株式会社、デロイトトーマツコンサルティング合同会社にて、製造業の国内外拠点における業務改善プロジェクトに多数参画。
現在はテーマパーク運営企業にて飲食部門・バックオフィス等の業務効率化を手掛ける。

共著「一人ひとりの『働き方改革』講座」(日本マンパワー株式会社)
執筆記事「サービス業で使える!生産性を上げる『カイゼン』テクニック5選」、
「サービス業のマーケティング入門!自社の『7P』を把握しよう」
(中小企業庁ポータルサイト「ミラサポ」)ほか多数。

お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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