1. Specialist Cloumn
  2. ニーズ発掘
  3. 2019.05.29

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第23回)
失敗を繰り返さないためには!?(道の駅 みそぎの郷 きこない)


企業経営や、ものづくり、サービス構築で、ずっと“連戦連勝”ってことはまずありませんよね。当たり前の話ですが、失敗したら、次にそれをどう生かすか、あるいは同じような失敗を繰り返すか、そこが勝負どころと言っていい。

今回取り上げるのは、過疎の町における地域おこしをめぐる話です。ものづくりとは世界は少し異なりますが、その話から得られる教訓は、ものづくりなどにも通じるものではないかと思い、皆さんにご紹介する次第です。

「道の駅」の話なんです。場所は北海道の南端に近い、木古内(きこない)町。

町が土地と建物を用意し、地元の事業者たちがお金を出し合って一般社団法人を立ち上げ、2016年の1月にオープンさせたのが「道の駅 みそぎの郷 きこない」です。同年3月に開業した北海道新幹線では、本州から青函トンネルを抜けると、北海道に入って最初の駅となるのが、ここ木古内。それに合わせて、「道の駅」をつくったということですね。

日本全国に数ある「道の駅」から、どうしてまた今回、この木古内の道の駅をわざわざ取り上げようと考えたのか。理由はいくつかあります。

まず、この道の駅の立地なのですが、新幹線駅の目の前にあります。「道の駅」なのに「鉄道客のための『駅』」でもあるということですね。いや、駅近にある「道の駅」というのは他にもあるじゃないか、と思われるかもしれません。それは確かに事実。でも、サービス内容がまた面白いんです。

ページ冒頭の画像をご覧ください。建物に入ってすぐの場所には観光案内するためのコンシェルジュが常駐しています。私、何度かここを訪れましたが、まず間違いなく、カウンターにで来館客を待ち構えています。さらに、周辺の地域も含めた地元情報にとても詳しい。コンシェルジュは制服をまとっていて、胸には金色のバッジ。そうなんです、一線級ホテルのコンシェルジュをほうふつとさせるような存在です。「道の駅」に観光案内スタッフがいる事例は他にもありますが、ここまで徹底しているところはかなり珍しいと言っていいのではないでしょうか。

さらには、開業直後から、あっと驚くようなサービスで注目を集めました。この「道の駅」、新幹線駅の眼前ということもあって、レンタカー窓口があるのですが、3時間でガソリン代込み3000円(税別)いうキャンペーンを始めました。空いているレンタカーをうまく活用した施策ですね。これをメディアがこぞって取り上げました。このサービスの存在自体がニュースバリューを生み、プロモーションのうえで波及効果を呼んだということですね。

また、山形・鶴岡市のイタリア料理の名店「アル・ケッチァーノ」の奥田政行氏のもとで、木古内町の料理人が1年半の間、修業を積み、この道の駅に戻って館内にレストランを立ち上げてもいます。単に有名シェフだから、というのではなくて、木古内と鶴岡は明治初期の開拓期から深い関係を築いていたこと、それと、地元の食材を大事にするという奥田氏の考えに共鳴し、このような展開となったそう。つまりそこには必然性がある。

こうした結果……。

人口わずか4200人、過疎化に長年悩んできたこの町でありながら、「道の駅 みそぎの郷 きこない」には、最初の1年間で約55万人もの人が来館。そして昨年(2018年)の10月には開業3年を待たずして150万人を突破しています。

ランキングで2連覇を飾った

北海道では多くの「道の駅」が奮闘を続けていますが、北海道の旅行雑誌における道内の「道の駅満足度ランキング」では、今年(2019年)、2年連続で総合1位を獲得するに至りました。

言うまでもないかもしれませんが、木古内駅には北海道新幹線の列車がすべて停まるわけではなく、通過する列車も多いんです。しかも、木古内って、申し訳ないですけれど観光地として超有名というわけでもない。

なのに、なぜここまでの成果を上げたのか、という話です。

「実は、今の活況は、ほぼ誰も予想していなかったんです」

ヒットの確信はなかったんですね。この道の駅、当初目標の実に3.5倍もの来館数で推移しているとのことでした。

まずはその立地のことから尋ねていきましょう。最初から「新幹線駅の真ん前につくる」ことはすんなりと決まったのでしょうか。

「いえ。『道の駅』での定石どおりに『国道沿いにつくらなくてどうするんだ』という声は挙がりましたね」

それでもこの場所を押し通したそうです。

「新幹線駅の前、という、この立地なくしては、最初の1年で55万人を呼び込む成功はなかったと思います」

ただし、国道沿いでないことにより、クルマでの来館者を確保し損じるという問題はなかったのですか。

「ちゃんとクルマのお客さんも付いてくれています。初年度の内訳を言いますと、クルマのお客さんが8割、鉄道で来るお客さんが1割、そして地元客が1割です」

1割の地元客、というところが、成功にはまた欠かせない要素ですね。決してバカにならない数字だと思います。つまり、この「道の駅」は特定の客に狙いを絞るのではなくて、あえて、クルマ、鉄道、地元と、三方をターゲットとしているんです。それが功を奏して、このヒットに結びついたといえます。詳しくはまた後ほどお話ししましょう。

かつての苦い体験を忘れず…

実は、ここ木古内には、かつての苦い歴史が横たわっていたといいます。

1980年代、青函トンネルが開通した後、在来線の特急列車が初めて木古内駅に停車することになりました。

「これで町は賑わい、過疎の問題は解消する、と地元の人たちは喜んだんです。ところが…」

念願だった特急列車が停車するようになった後も、木古内には大きな変化はもたらされなかったというのです。なぜ?

「予算を組んで歓迎イベントを催したりはしたのですが、結果として本州から観光客はほとんど来なかったし、町の人口が増えることもなかった。つまり、イベントを単発で組むくらいで、あとは人を待つというのでは何にも解決しないんだ、という記憶が刻み込まれたんですね」

だからこそ、北海道新幹線の開業時には、地元の人たちは真剣に動きました。あのときのぬか喜びを二度と味わいたくないということです。ただでさえ、木古内駅に停車する新幹線は半分程度なのですから、なおのことです。せっかく新幹線が開業しても、途中駅、通過駅として埋もれてしまう恐れはありますから。

「道の駅 みそぎの郷 きこない」は、そうした危機感を共有したからこそ生まれた存在だったわけですね。ただ待つだけでは何も起こらない。ならば、できる限りのことをしようという思いが、この施設の立ち上げを促した。

しかし、ここでもうひとつ確認してみたいことがあります。この「道の駅」では、建物ができ、店内構成を決めてオープンさせたところで止まっていませんよね。独自のサービスを矢継ぎ早に編み出し、徹底して具現化しています。単なる箱もので終わっていない。

「ただの箱ではなく、面白い箱をつくる、という共通認識がありました」

なるほど。だから、オープン後も手を抜かなかったのでしょうね。この「道の駅」のフェイスブックページは投稿頻度がとても高いのですが、これも「ニュースを常に提供するからこそ、お客さんもメディアも反応してくれる」との意識の賜物と聞きました。しかも投稿からは、担当者の息遣いがきちんと感じられる、そんな内容になっている。これ、できそうでなかなかできないことと思いました。

「レストランに関しても、一部からは『普通のそば屋さんがあればいいんじゃないか』との声は聞かれました。でも、それでが面白い箱にならない。だからこそ、木古内とゆかりある鶴岡に根ざしている『アル・ケッチァーノ』を口説いたのです」

「アル・ケッチァーノ」の奥田政行氏は、このレストランのプロデュースを担っただけでなく、この「道の駅」でのトークイベントのために、わざわざ木古内まで足を運んだりもしてくれているそうです。

形から入ることも必要、と

先に触れたとおり、「道の駅 みそぎの郷 きこない」は、クルマのお客、鉄道で来るお客。そして地元のお客と、ターゲットをあえて絞らずに成功を収めています。

普通に考えると、マーケティングの定石としては、きちんとターゲティングする作業が必要なのでは、と思わず考えてしまいそうですが、ここはそうではなかった。果敢に三方取りに挑んでいます。

「ただし、やみくもに、三方狙いをしたわけじゃないんです」

どういうことか。クルマのお客、鉄道のお客、地元のお客、それぞれをしっかりと分けて訴求方を丁寧に練った跡が見て取れます。そこが重要ではないかと、私は感じました。

クルマでのお客には、常に配置されているコンシェルジュがドライブ情報を詳しく伝え、新幹線などで来た客には前述のようなレンタカープランを用意。地元客には?

「まず、レストランの存在がありますね。価格帯は少し高めですが、それだけに、ちょっといい日の食事に使ってもらえます。そして、もうひとつ。銀行ATMを設置したんです」

この町ではコンビニエンスストアが少なく、現金の引き出しなどに困る場面もあるとのことです。だったら、と、「道の駅」にATMを導入しました。これが観光客だけでなく、地元の人に大助かりとなっているようです。また、地元客のリピート利用を促すために、割引特典のある会員システムも構築しました。

さらに聞きたいことがあります。観光コンシェルジュを常駐させる意味はわかりますが、どうしてわざわざ制服を揃えて、金色のバッジまで着けているのでしょう。

「コンシェルジュの存在を真に機能させるためには『見た目』も必要なんです」

ここは道南(北海道南部)の情報発信基地としても役割を果たしたい。そう考えたそうですが、単にモニターツアーを組んだり、平板な広報活動を行ったりするだけでは、まだまだ効果は得られないと判断した。それで、自分の言葉で話せるコンシェルジュを揃えたわけですが…。

「『ああ、この人になら、なんでも尋ねていいんだ』と、雰囲気ひとつから感じてもらえることが大事でしょう。だから、このいでたちなんです」

なるほど。納得しました。それに、この服装であれば、当のコンシェルジュ本人たちも、身も気持ちもが引き締まること、間違いないでしょうし。その効果もあると思いましたね。

全国の「過疎の町」から来る

ここまでお伝えしてきて、この「道の駅 みそぎの郷 きこない」が、過去の失敗を教訓とし、新幹線開業という千載一遇の(しかし、これを逃すと次はないかもしれない)好機を生かそうと動いたことがおわかりいただけたかと思います。

そして、ただ150万人を超える来館者を3年弱で記録しただけではなかった、とも。

「木古内もやればできる。地元の多くの人たちが、そう感じたようです」

地元の人自身が、この木古内の魅力に気づいていなかった。それが、「道の駅」の進展によって、ここは実は道南観光拠点として格好の場所なのではないかと認識を改めたというのですね。

そして今、全国からの視察がどんどんと増えているそうです。

「新幹線の開通を控える自治体からはもちろん、新幹線とは関係なくても過疎に苦しむ自治体の方も多くいらっしゃいます」

きっと参考になることが多々あるのでしょう。なにせ、以前は目的地としてはほぼ考えられていなかった木古内に、これだけの人が訪れるようになったわけですからね。

この町には何もないから、と諦めている地域は少なくないと思います。また、過去に地域おこしに失敗した地域も多いはず。木古内の「道の駅」には、そうした地域に役立つヒントがあると思います。

失敗を忘れない、と、文字にすれば簡単にも見える話ですが、これがやはり極めて大事ということですね。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 

北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

Introduction

あわせて読みたい