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  3. 2019.07.24

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第26回)
「ひとつも残さずに」が生み出す効果!(沖縄県酒造協同組合)


伝統的な地域産品を取り巻く環境は、必ずしも順風ではありません。時代が変わるとともに、気づけば消費者が離れていった事例は少なくない、と、残念ながら言わざるをえない。
今回と次回の2回にまたがり、地域産品への注目を再び集めるにはどんな方策がありうるか、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。今回の事例は「酒類」、次回は「金属加工」ですが、ほかの業界のみなさんにも参考になる部分があるのではないかと思っています。

で、今回の話、さらに具体的にお話ししますと、「沖縄の泡盛」なんです。泡盛の市場規模は2004年をピークに年々減少しているといいます。昨年も前年割れとなってしまいました。
こうした長期低落傾向というのは、業界にとっては厳しいものがありますね。じわりじわりと存在感を失っていくと、なんらかの手を打つきっかけを、なおのこと得られにくい側面があるからです。

泡盛の場合は、どう動いたのか。

実は数年前に、私、沖縄県庁の招きで、泡盛業界の人たちの前で研修講師を務めたことがありました。そのときに私が力説したのは2つ。
まず「必然性の薄い対策は、有効ではないかもしれない」。例えば、泡盛を使ったカクテルのレシピブックの配布などは、訴求力が弱いと考えられるということです。カクテルを作るなら、何も泡盛でなくたっていいわけですからね。

もう1つは「すべての蔵が協力して何かをなすべき」。泡盛の酒造所は、1つの県に集中していて、しかも蔵の数を全部合わせても40軒台です。だったら、全酒造所のコンプリートセット(それぞれのミニチュアボトルを40数本揃えて、全部の酒造所を網羅するセット)をつくることも物理的にはたやすいわけでです。
ただし、その研修は一度限りで終わり、その後の動きに、私は関わることはありませんでした。
そして、昨年(2018年)のこと……。私が「おおっ!」と声を挙げた取り組みを、泡盛業界が仕掛けたことを知りました。

それは、前述したような「すべての泡盛酒造所の40数本を、コンプリートセットにして提供する」というものではなくて……。もっと踏み込んだ試みに挑んでいたんです。
何かというと、「沖縄県内にある全46の酒造所の泡盛を、文字通り、ひとつ残らずブレンドして1本にしてしまったという商品」を繰り出してきたんです。
それって、コンプリートセットどころの話ではないですよね。全酒造所の泡盛を、すべて一緒くたにして寝かせ、ボトル詰めするということですから。

その泡盛の名は「いちゃゆん」といいます。沖縄の言葉で「出逢い」を意味するそうです。昨年8月に、「いちゃゆん 25度」を発売。これは720mlボトルで1060円。限定3000本でした。そして11月には「いちゃゆん 43度」も登場しました。こちらは720mlボトルが1940円で限定5000本。1800mlボトル(一升瓶ですね)が3980円で限定1000本。

どこが仕掛けたのか。泡盛の酒造所を束ねる立場である、沖縄県酒造協同組合です。最初は地元流通企業のイオン琉球からの打診がきっかけだったらしい。沖縄の泡盛の良さを伝えるプロジェクトを実現できないか、と。
そこから、協同組合が動き、この痛快な取り組みを現実のものにすべく、県内のすべての酒造所への声かけを始めました。

ケンカしないで、まとまって…

まず、何をおいても、いったいどんな味に仕上がっているのか、それをお伝えしますね。46の酒造所の泡盛を全部ブレンドしたらどうなるのか、考えようによっては、ずいぶんと乱暴な話にも思えますから。

いや、これがちゃんと、味として成立しています。不思議なほどに……。むしろ、練れているといいますか、まろやかな1杯に思えるくらいです。

私が初めて「いちゃゆん」を口にしたのは、沖縄・那覇のちいさな飲食店でした。そこの女性スタッフの表現が、この泡盛の持ち味を最も言い当てていたような気がします。

「ケンカしないで、まとまっている味ですよね」

そうなんです。ケンカしていない。

この「ケンカしないで」という言い方は、本当に絶妙と思います。それは泡盛そのものの味にかかわる話だけに留まらないと思えるからです。46もの酒造所がケンカせずに、一軒も残さず、このプロジェクトに協力したから成し得たわけです。

私、酒類に限らず、全国各地の地域おこしプロジェクトを見てきましたし、ときには、取材する立場を超えて、その旗振り役を果たした事例もありました。そうした過程で痛感したのは、「地域おこし事業では、必ずしも、その案件に関連する人が一枚岩になるとは限らない」という事実でした。

「そんなことをして、何の意味がある」「うちにメリットはあるのか」と、何度耳にしたことか、という感じでした。

そんななか、沖縄では、協同組合の求めを、すべての酒造所が快諾して、この「いちゃゆん」を完成することができています。どうしてそれが果たせた? という思いは、やはり募ってきます。

説得を重ね、時間をかけて

このプロジェクトが完遂できた背景には、もちろん、泡盛市場が縮小することへの危機感があったことは間違いありませんね。でも、そんな危機感があったからといって、全国各地のさまざまな業界が同じように動いているわけではない。泡盛の場合には、協同組合の動きがまずよかったのだと思います。

「すべての酒造所の泡盛を一緒にブレンドすることに挑むのは、今回が初めてです」

協同組合の専務理事はそう言います。46蔵の泡盛をブレンドするって、やっぱり無茶な話だったのでしょうか。

「いや、複数の蔵の泡盛をブレンドして商品化するという実績は、協同組合に十分にありました。問題は、『全部の蔵』というところですね」

それはそうです。ひとつの蔵でも欠けてしまうと、「全蔵」とは当然言えなくなります。それではプロジェクトの意味はなくなってしまう。協同組合にすれば、かなり緊張する、そして丁寧に事を運ぶ必要性を実感するものであったでしょう。それは想像に難くありません。

「離島にあるちいさな酒造所の場合、生産量がそもそも少ないですし、この取り組みに参加してもらうには泡盛の輸送費の問題も出てきます。そこをどう説得するか」

協同組合が積極的に動き、それぞれの酒造所にかかる輸送費などの負担を取り払うよう、対策を講じたそうです。「協力せよ」とやみくもに働きかけるのでは決してなくて、参加へのハードルをまず下げるところから考えたのですね。

ただ、意外なほどに、県内の各酒造所からは反発の声はなかったとも聞きました。私など「自分の蔵の大事な泡盛を混ぜてしまうなんて」と断るところも出てきそうだと思ったのですが、そうではなかった。

「それだけ、危機感をみんなが共有できていたということです」

その結果、全国でもまず例を見ない「全蔵元参加の1本」をつくることができたという話。

ただし、反発こそなかったとはいえ、ちいさな酒造所からは「うちは参加しなくてもいいですよ」という声がなかったわけではないらしい。協同組合の方針に背くということではなくて、単純に生産量などの問題があったからといいます。

「それでも説得を重ねました。だって、ひとつの酒造所が欠けたら、もう意味をなさない案件ですから」

当たり前のことに思えるかもしれませんが、これ、本当に大変な説得ではなかったかと、私は推測します。酒造所には酒造所の事情がある。でも、全蔵参加の完遂を目指すには、そこにも踏み込まないといけません。協同組合がここで諦めず、丁寧に話を進めたことは、とても大事なポイントではないでしょうか。

ブレンド比率はあえて「ほぼ均一に」

ちなみに……。全46酒造所の泡盛を、どんなブレンド比率でものにしたのですか。

「それが、ほぼ均一なんです。各蔵からの供給量に制約があるため、ごくわずかの差こそありますが、それは文字通り、本当に微細な違いに留めています」

そうなんですか。私、てっきり、味を整えるためにブレンド比率を大きく変えているのかと早合点していました。ほぼ均一で、これだけ「ケンカしない味わい」になっているところが、また面白いですね。

「ブレンドしてから半年ほど寝かせています。この時間が、味わいを生みました」

半年、が肝心なのですか。

「そうです。『交わるには、時間がかかる』。そういうこと」

これもまた、意味ある言葉と感じました。すべての蔵がひとつになるには、時間をかけるべき部分はかけないといけない。今回の場合、2017年の9月に理事会でプロジェクト開始が承認され、翌春までのおそよ半年かけて、各酒造所の説得や仕入れに要する時間とし、さらに夏から秋にかけるまで、泡盛をブレンドして寝かせた……。

当の協同組合でさえも、ここまで美味しくなるとは、そしてここまでまとまった味わいになるとは、驚きだったそうです。

「我々も正直、びっくりしたんですよ。この味を狙ったわけではないんです。あえて手を加えず、ほぼ均一のブレンド比率にするようにしたら、こうなった。まとまっていたんです」

それって、ちょっとおとぎ話のようでもありますね。そして、そのプロセスも含め、「いちゃゆん」の出来映えがクチコミを生んでいったんです。

「いちゃゆん効果」は、確かにあった

ここからが大事な部分です。苦労して完成させた「いちゃゆん」は、長期低落傾向にあえぐ泡盛業界に、何かをもたらしてくれたのでしょうか。

厳しい言い方をしますと、単発のイベントのような取り組みであるとするなら、その効果も限定的なものに留まるとも予想できますが……。

「いえ、間違いない効果を実感しています」

どういうことか。

とにもかくにも、「いちゃゆん」は売れました。特に最初に登場させた「25度」はまたたく間に製造数の大半がさばけてしまったらしい。各酒造所は「よく売れてるね」と喜び、きっかけをくれたイオン琉球は売り上げ好調に沸き、そして消費者は「すごい泡盛を出したね」と驚いた。

「泡盛に再び振り向いてもらう、大きな契機をつかめたこと感じています」

たとえ、限定販売のプロジェクトでも、こうして「泡盛の世界で面白いことが起きている」と広く認識してもらうこと、それ自体に意義があったということですね。そしてもちろん、泡盛の全酒造所が力を合わせたという実績が、ここにしっかりと刻まれたということでもあります。次につながるという点で、そこも見逃せません。

専務理事はいいます。

「もう一度、すぐに、とは言いません。でも、今回の『いちゃゆん』の取り組みに、できれば再度挑みたい」

私もぜひ、そうあってほしいと願います。一度成功した事案にとって大事なのは、「次もやること」に、ほかならないからです。続けていくと、そこに新たな効果がまた生まれます。

「いちゃゆん」のパッケージに描かれている青や黄色のイラストは、数えると46の円が重なり合っています。これってつまり、46の蔵が協業したことの証なのですね。

この「いちゃゆん」、残りごくわずかではありますが、沖縄本拠のある酒販系のネットショップでまだ若干の取り扱いがあるほか、各都市で開催される沖縄物産展でも販売される可能性があるとのことです。

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北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

Introduction

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