1. 組織・人事
  2. 経営全般
  3. 2019.08.01

事業承継成功は「後継者の右腕」の育成がカギ


中小企業・小規模事業者のうち65歳以上の経営者は約4割を占め、今後事業承継のタイミングを迎える企業が増えるとみられています。 平成30年度の税制改正では、以降10年間の措置として、相続税の納税猶予割合を100%に引き上げる等の特例が設置されました。 

しかし、事業承継において「後継者を誰にするか」や「後継者の育成方法」は注目されるものの、後継者を補佐する「右腕」となる人材の選定や育成については、まだ議論の途上ともいえます。今回は、後継者を補佐する「右腕」となる人材の重要性および育て方について解説します。

後継者を補佐する人材の確保は後手にまわっている

(1)後継者の課題は「右腕となる人材がいない」

出所:中小企業庁編「2017年版中小企業白書」

経営の引継ぎに関する課題とその対策・準備状況に関する調査を見ると、後継者が決定している企業および後継者が決定していない企業いずれに対しても、「後継者を補佐する人材の確保」については、約8割が「課題と感じる」と回答しつつも、「対策・準備を行っている」割合は低いことが読み取れます。特に、後継者が決定していない企業については約3割に留まっています。

出所:中小企業庁編「2017年版中小企業白書」

一方、実際に事業を承継した後継者は、事業を引き継いだ際にどのようなことが問題になったのでしょうか。1位が「社内に右腕となる人材が不足」、2位が「引継ぎまでの準備期間が不足」となっています。特に、親族外承継をした後継者については、その割合がより高い結果となっています。

これらの調査結果により、「後継者の右腕となる人材の確保・育成」について課題と感じつつも、実際に対策に乗り出す企業は少なく、結果事業を承継した後継者が「右腕人材の不足」と課題に感じていることがわかります。

(2)社内調整には「右腕」となる人材が必要

アメリカの組織心理学者リッカートが提唱した「リンキングピン・モデル」では、人と人や組織を結びつけコミュニケーションを円滑にする役割、あるいはそうした役割を果たす能力を「リンキングピン(連結ピン)」と呼びます。リーダーやマネジメント層には連結ピンとしての役割が求められるとしています。

事業承継をした後継者が感じる孤独感や不安は、一般社員にはなかなかわかりにくいものです。私の支援先では、先代社長を支えた古参幹部とのコミュニケーションや、一般従業員とのコミュニケーションに課題を抱えている後継者が見受けられます。

このような課題を抱えた後継者を理解し、支え、組織の意見を調整する連結ピンとなる「右腕」がいることで、後継者は企業の組織運営を円滑に進めることができるでしょう。

事業承継や人材の育成には10年スパンの長い時間がかかります。後継者に経営を引継ぐ前から、引継ぎに向けた社内体制の整備や人材育成を進めることが、円滑な事業承継の実現につながるといえます。

後継者の「右腕」となる人材に求められる要素

では、この後継者の「右腕」となる人材にはどのような要素が求められるのでしょうか。

出所:中小企業庁編「2019年版中小企業白書」

後継者が経営を補佐する人に求める能力としては、「事業に関する専門知識」や「事業に関する実務経験」、「経営に関する専門知識」が求められていることがわかります。特に、今後承継した事業を拡大させようと考える後継者には、特にその割合が高くなっています。

では、後継者は経営を引き継ぐにあたり、どのような不安を抱えているのでしょうか。

出所:中小企業庁編「2019年版中小企業白書」

後継者が事業を継ぐにあたり懸念することとして、「自分の経営者としての素質の不足」や、「実務経験の不足」が回答の上位にあがっています。業績向上や雇用の維持、借入金に対するプレッシャーも大きいものです。つまり、後継者の「右腕」となる人材には、後継者が不安に感じている実務経験の不足を補い、後継者を支える素質が求められていることがわかります。

後継者の「右腕」となる人材をどのように育てるか

このように、孤独な後継者を支え、事業をスムーズに継承し、さらに新事業の発展に力を注ぐには、後継者の「右腕」となる人材は必要不可欠といえます。現経営者には、後継者の選定・育成だけでなく、後継者の「右腕」となる人材の育成も、早期から進める必要があるでしょう。

では、後継者の「右腕」となる人材はどのように育成すればよいのでしょうか。

(1)現経営者の想いを共有する

事業承継の手引きとして、中小企業庁が発行する『経営者のための事業承継マニュアル』が参考になります。
本マニュアルでは、事業承継の構成要素として「人(経営)」・「資産」・「知的資産」の3つを取り上げ、それぞれについて計画的に進める方法をわかりやすく解説しています。

現経営者の想いや経営理念、これらを含む知的資産を後継者にしっかりと伝える上で、「知的資産経営報告書」や「事業価値を高める経営レポート」の作成は非常に有効とされています。現経営者と後継者はもちろん、後継者の「右腕」となる人材も一緒に取り組むことで、現経営者が築き上げた事業の意義や自社の強み、現経営者の想いを共有することができます。

(2)経営層に抜擢し、意思決定の経験を積む

ここで事例をご紹介しましょう。

T株式会社(従業員 18名、資本金 3,000万円)は、親族内で承継の意思がある人材がいなかったため、従業員でエンジニアのB氏(現社長)を取締役に抜擢し、後継者育成を進めました。その後、経理やISO認証取得の経験が豊富であったA氏を取締役に抜擢し、B氏の右腕となる人材としました。 
T株式会社は中小企業診断士の支援のもと、従業員全員で知的資産経営報告書を作成し、自社の強みの源泉や経営方針を会社全体で認識しました。社内体制が整ったことで、取締役就任から11年後、B氏は社長に就任しました。

本事例は、後継者および右腕となる人材を早期に経営層へ抜擢し、従業員とともに時間をかけて承継後の社内体制を整えたことが、スムーズな事業承継につながった事例といえるでしょう。

経営者として意思決定をできる人材になるまでには、時間がかかります。それは、後継者だけでなく、それを支える右腕人材にも同じことがいえるでしょう。
従って、後継者の右腕となる人材の育成には、「早期に経営層に抜擢すること」、「経営課題に関する解決策を考える機会を多く与えること」が必要です。

経営に関する知識を学ぶだけでは、経営の舵取りをすることはできません。実際に起こる経営課題の解決に取り組む「アクションラーニング」のプロセスを経ることで、それまでプレイヤー要素が強かった人材も、経営視点で物事を考えることができるようになるのです。

大事業承継時代に備え、早めの対策を

事業承継にあたり、後継者とともに後継者の「右腕」となる人材の重要性についてもご理解をいただけましたでしょうか。

準備することが多い事業承継は、社長1人だけで進めることは困難です。特に、人材育成や組織開発は専門性が高く、効果がすぐ出にくい分野ともいえます。従って、中小企業診断士等の外部人材に相談することも有益でしょう。公的支援機関では、右腕人材育成のための支援サービスを用意しているところもあります。

後継者が事業をより発展させるために、「後継者の右腕となる人材」の育成についても、早めの対策を打ちましょう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 

米澤 智子/株式会社プロデューサー・ハウス

執筆者紹介文:

株式会社プロデューサー・ハウス ライター、コンサルタント
1985年生まれ、神奈川県出身。

2009年地方銀行入行、債権管理および中小企業融資業務に従事した後、
総務部門で銀行全体の通信設備管理や株主総会運営に携わる。

2016年中小企業診断士登録。

2017年より公的機関に勤務、
専門家派遣事業において小売・サービス業を中心とした支援に携わる。

お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

Introduction

あわせて読みたい