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  3. 2018.08.08

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第4回)
「商品の独自性を生むなんてムリ」と諦めている人へ!(株式会社花由)


競争の激しさが増すばかりの時代です。

商品でいまや独自性を創出するのはムリ、と諦めている人もいらっしゃるかもしれません。とりわけ成熟商品を扱っている企業の場合には、差別化をなすことは難しいと感じておられることでしょう。

ここでいう成熟商品とは、技術競争が一段落し、品質や特性で違いを明確に出すのに苦労するような分野の商品のこと。いっときの白物家電(エアコンや冷蔵庫など)、あるいは文房具(筆記用具など)がそうですね。

でも、両者とも、この10年で再び進化を遂げ始めています。ご飯が驚くほどに美味しく仕上がる炊飯器は10万円近い高級機種でも売れていますし、文房具でいえば一度書いた文字を消せるボールペンのヒットなど、その筆頭格でしょう。

とはいうものの、中堅中小企業にとっては商品差別化のためにそうそうコストはかけられませんし、仮にコストをかけようと決断しても、それが功を奏するかどうか見通せないままでは不安は募るばかりかと思います。

今回もひとつの事例を取り上げます。
それは花束。

花の市場というのは、聞くところでは2000年以降右肩下がり状態を続け、街場の花屋はかなり苦境に立たされているようです。そうした状況にあって、まあこの時代の話ですから、ネットショップを開設するところも少なくありませんが、それはそれで大変です。

なぜならネットショップの運営に乗り出した途端に、全国規模で展開する大手チェーンと相まみえることを覚悟しないといけない、ということに他ならないから……。地方の花屋さんが太刀打ちできる世界なのか。

4つの質問を重ねてみたのだが… 

徳島県の花由(はなよし)は、同県を中心に十数店舗を展開する中堅どころの花屋です。ここがネットで販売している主力商品に「そのままブーケ」があります。値段は送料込みで3,625円。手頃な価格帯の商品です。

実はこの「そのままブーケ」が、ネットからの注文だけで1日平均100件前後、年間通して3万件もの販売事績をあげていると聞きました。

これ、地方の花屋としてはきわめて驚異的な数字です。しかも、オーダーが入ってくるのは四国の消費者中心というわけではなくて、首都圏はもちろん全国津々浦々から注文が届くらしい。

いったいこれは何なのか。どんな秘密があるのか。

そこを探ってみたくて、取材を申し込んだら……取材に難色を示されてしまったんです。よほどの秘策を隠し持っているということ? いや、そうではなかった。

同社が言うには「どうしてここまで売れているのか、私たちにもさっぱり分からないので、お話のしようもないんです」と困惑ぎみに返されました。

これは、なおのこと興味が湧いてきますよね。同社自身も戸惑っているほどのヒットである背景に何があるのでしょう。

半ば強引に取材のアポイントを取り付けて、徳島に飛びました。「そのままブーケ」は他の花束とどこが違うのか。

取材で私が投げかけた質問は4つでした。その場面を思い出しながら綴っていきますね。

私からの1つめの質問はこれでした。「『そのままブーケ』って、花瓶が要らない花束ですよね。宅配便でこれを受け取った人は、箱から出せば、文字通りそのまま自立した状態で卓上に置けます。これはかなり便利な趣向ですれけど、花由だけのオリジナルですか」

その答えは……「いえ、他の花屋でも同じような商品があります」

がっくりきました。外れたか。

2つめの質問です。「この商品の『そのまま』という呼称には、もうひとつの意味がありますね。水も栄養剤も全く要らない。花束の底部分に水分と栄養剤を含むジェルが入っているから、10日間ほど何にも手入れしないで、そのままで花の状態を保てますね。放っておけるこの特徴こそ、花由だけのものではないんですか」

花由の返答は……「よそでもありますよ。だってそのジェルはメーカーから仕入れているわけですから、他の花屋にでも可能な仕掛けです」

それも外れでした。

最後の質問で、答えが見えた

ならば、3つめの質問です。「『そのままブーケ』を注文したら、発注者の側に、(宣伝用のサンプル画像ではなく)実際に発送する現物を、宅配便で送ってくれる寸前に写真に撮って送ってくれるじゃないですか。これこそが花由であればこそのサービスなんですね」

これ、客にとってはとても安心できるサービスです。現物を見ないまま贈る先に発送されるのが、ネットショップで花を購入する際の不安点です。それを解消してくれる仕組みですからね。

ところが、ここでも花由の答えは……「他でも見られるサービスなんですよ」

なんと! これもまた花由独自のものではなかった。

最後、4つめの質問です。「午後3時までにネットで注文すれば、その日のうちに『そのままブーケ』をこしらえて発送してくれる体制ですよね。一部地域を除けば、翌日には届く仕組みです。これが花由だからこその強み……そうじゃないのでしょうか」

答えは、ですね……「いえ、午後4時まで受け付けている他の花屋だってあります」

そうなのですか。

私は念を押しました。「花瓶要らずなのも、手入れ不要なのも、現物の写真を送ってくれるのも、そして午後3時までなら当日発送してくれるのも、全部よそもやっているのですね」

「そうなんですよ」

「じゃあ、なんで花由だけがこんなに売れているんですか」

「だから、『それが分からないから、取材はお受けしづらいんです』と申し上げたじゃないですか」

皆さん、答えは見えましたか。私、実は途中で気づきました。
で、私が最後に尋ねたのは……。

「では、この質問をしたら、東京に戻りますね。今挙げた4つのサービスはどれも他の花屋でも見られると聞きましたけれど、その4つに『全部対応している』のは、花由の他にどれくらいありますか」

そう聞いた瞬間、花由のスタッフは天井を仰いで、こう言いました。

「ああっ! 4つとも全部やっているのは、私たちだけかもしれない!」

商品戦略における「現代のおとぎ話」

そうなんです。当の花由自身が気づいてもいないまま、いつしか「そのままブーケ」はライバルの他社商品に比べて、しっかりと差別化がなされ、唯一無二の花束になってしまっていた、ということなんですね。

私この経緯を考えると、商品戦略(マーチャンダイジング)における「現代のおとぎ話」のように感じられました。

原価をそうかけられないような安価な花束で、明確な差別化を図って独自性を出すなんて、まず無理なことだと花由自身も感じていました。そのなかで同社は何をしてきたか。ただただ愚直に、やれることをやった。手を打てることは(たとえ他社追随の施策であっても)手を打ち続けた。そうした結果、いつしか「そのままブーケ」は、他の商品を寄せ付けないほどの強みを身にまとっていた。

ネットショップを通して販売する商品であったことも大きいでしょうね。ネットユーザーは、商品間の差異を仔細に比べて、それをレビューする傾向にありますから。多くのユーザーは、「そのままブーケ」と、それ以外の花束の違いを、見逃すことはなかったわけです。

すべての商品事例において、ここまでの奇跡的現象が起こるとは、もちろん言い切れません。でも、差別化などもはや無理というようなジャンルで、こうして唯一無二の商品が生まれた経緯は、一定の参考になりませんか。ひたすら愚直に商品特性を磨いていけば、当人も知らぬ間に、いつしか答えは出るかもしれない、という話です。

ただし、意識して打てる手は講じた

とはいえ、花由に話を聞いていくと、無意識のままにサービスを図っていったという部分の他に、意識して講じた手もあったようです。この商品の成功理由を正確に伝えるなら、その側面にも触れておかなければなりませんね。

まず、「そのままブーケ」は、「突飛なデザイン、先鋭的なデザインを避けた」といいます。それはどうして?

「この商品は『これまで花束を買ってこなかった』消費者層に訴えかけたかったんです。だったら、奇抜なデザインで目を惹くよりむしろ、あえて無難なアレンジメントのほうが向いている」

これには納得しました。花の市場は右肩下がりを続けています。しかし、これまで花束を購入したことのないような層を巻き込むのならば、市場規模の減少はあまり気にせず済むという理屈は成り立ちますよね。そもそも花の市場とは無関係の人たちに買ってもらうわけですから。

3,000円台と低廉な花束ですが、アレンジに加える花は7種類前後と、一般的な同価格帯の商品に比べると、2~3種類ほど多くするように心がけてもいるそうです。これも“花束初心者”を取り込むには、賢明な戦術に思えてきます。

さらには、花束に添えるメッセージカードの文字数を無制限にした、とも聞きました。他の花屋の場合、手間などを考えて規定の文字数を提示しているところが多いそうですが、花由はそうはしなかった。こういうところがじわじわと効いてきた、とも言えそうです。実際、分厚い手紙ほどの文字量を依頼されることもあるそうなのですが、よほどの繁忙期でない限り、きっちりと応じているらしい。

「現代のおとぎ話」が結実する過程では、こうした細部への目配りもまた大事な役割を果たしたということでしょう。

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北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

Introduction

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