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  3. 2018.08.10

【経営者必見】小さな会社のための”財務の教科書”(第4回)
財務体質を改善し、潰れない会社をつくる。


1. はじめに

前回の最後に、キャッシュフロー重視の貸借対照表中心の経営が会社を潰さない方法になると説きました。
本稿では具体的にどうやってそれを実践するのかについて話を進めていきますが、その前にキャッシュフローを考える重要性について良く分かる稲盛和夫さんのこんな話があります。

株式会社 京セラがまだ中小企業だったころ、経理責任者が「法人税等の税金を払うため銀行借入をするので借入金申込書にサインと押印をしてください」と言ってきたので、稲盛さんは「利益が出たから税金を払うのに、税金を払うために借金をするのはおかしいのではないか。儲けた利益はどこに消えたのか。」と質問したら、経理責任者は「儲かった利益が現金で残っているわけではありません。借入金の返済に回ったり、売掛金や棚卸資産の増加等に使われているのです。」と答えました。

稲盛さんは「儲かった利益が現金で残っていないなら本当は儲かっていないのではないか。」と言ったら、経理責任者は「会計上は儲かったと言うんです。」と言い、禅問答をしているようだったと『稲盛和夫の実学』という本に書いてありました。

そこで、稲盛さんは「儲かった利益がどこで消えたか」を明らかにするため、独自のキャッシュフロー計算書を考案したと言います。それは現在、一般的に使われているキャッシュフロー計算書とほぼ同じものだということです。

しかし、キャッシュフロー計算書は1期間のお金の流れを説明するもので、累計で儲けた利益がどこに消えたのかを説明できません。
大事なのは1期間のフローではなく、累計のストックを正確に知ることが、潰さない経営には重要なのです。
累計で説明するにはB/Sの純資産の部の利益剰余金がどのように使われたのかを説明できなければなりません。

2. 銀行の格付は会社の財務体質を正しく評価していない。

ちなみに、銀行が行う「企業格付け」も、財務体質を正しく示しているわけではありません。
それは「企業格付け」では、融資先の貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を基に評価しているからです。
一体どういうことでしょうか?

銀行が行う「企業格付け」はB/SとP/Lから、①安全性(自己資本比率等)、②収益性(総資産利益率等)、③成長性(経常利益増加率等)、④返済能力(債務償還年数、インタレスト・カバレッジ・レシオ等)の4つの項目について分析比率を使って定量評価し、格付をします。

実は、銀行の格付を上げるコツがあります。
決算時に(1)総資産を少なくすること、(2)流動資産を多く、流動負債を少なく表示すること、(3)営業利益、経常利益を多く表示し、税引前利益は少なくすること。(4)借入金を少なくすることです。

決算月に借入金を返済し、総資産と借入金を圧縮すれば、銀行の格付は上がります。
つまりこれらは、第1回で書いた理想的なP/L、B/Sの図を目指すことと同意です。

しかし理想的なB/Sが、理想的な財務体質というわけではありません。
流動資産が多く、流動比率(流動資産÷流動負債)が高ければよいのかと言うと違います。

もし、儲けた利益が預金ではなく、受取手形、売掛金、棚卸資産に使われていたら預金は残りません。
また、家賃を払うのはもったいないからと自社ビルを購入したら、地代家賃という経費がなくなるから会計上は経費削減になり、利益は増えます。

しかし税金も増え、多額の借入金の返済は長期的に資金を圧迫します。
一般的な「企業格付け」は「資金の格付け」ではないため、銀行の格付けが良いから財務体質が良いと捉えるのは非常に危ういです。

3. 資金別貸借対照表を使って儲けた利益がどこに消えたかを知る。

これまで説明した通り、会社を潰さないためにはキャッシュフロー重視の貸借対照表中心の経営が重要です。
では、貸借対照表中心の経営は具体的にどのように進めていけば良いのでしょうか。

 

(1)    資金別貸借対照表とは

資金別貸借対照表を貸借対照表と損益計算書から作ります。
これは資金を現金収支と捉え、①損益資金、②固定資金、③売上仕入資金、④流動資金の4つの要素に分けて表示した形式になっています。
資金別貸借対照表は税理士の佐藤幸利先生が考案されました。

右側が資金の調達、左側が資金運用、その差額が一番左の現預金です。

「損益資金」とは、内部留保を含めた損益を集約した資金です。
この資金だけが自分で稼いだお金であり、本来会社に残るべきものです。
そもそも企業の目的は、この資金を最大にすることにあります。

「固定資金」は、資本金や長期借入金を使って設備投資を行うなど、企業規模拡大の原動力となる資金です。しかし、固定資金の拡大が会社のつまずきの原因にもなっており、最も注意すべき資金です。

「売上仕入資金」とは、売上代金の回収と仕入代金の支払いとの差額により発生した資金で、サイトの勝ち負けを見ます。
サイトとは、手形のサイト(受取日~回収日、振出日~支払日までの日数)や、売掛金や買掛金のサイト(回収日までの日数や支払日までの日数)を指します。
サイトの勝ち負けとは、手形を例にすると、受け取った売上代金の手形が仕入れ代金の手形より先に現金化されればサイト勝ち、その逆であればサイト負けと表現します。
「勘定あって銭足らず」とは損益資金がプラス、売上仕入資金がマイナス(サイト負け)の状態です。

これらの3つの資金の合計が「安定資金」であり、3つの資金以外の調達運用差額から発生した資金が「流動資金」です。流動資金は全体資金の短期的調整、いわゆる、つじつま合わせの役割を担っており、その原資は短期借入金と割引手形が中心です。

つまり、安定資金がマイナスだと流動資金で手元現預金を短期借入金と割引手形で調達していることになるので、きわめて危険な財務状態と言えます。


(2)    儲かった利益はどこに消えたかを資金別貸借対照表で理解する

実際に資金別貸借対照表を使ってA社の財務分析をしてみましょう。
まず、表の左端の「現預金」列を縦に見ます。この列は、企業活動の現金収支を表しています。

30年間の利益の蓄積である損益資金は、3億2,350万円①あるのですが、売上仕入資金のサイト負けで1億6,400万円②が吸い込まれ、さらに固定資金の棚卸資産で2億1,980万円③の資金が吸い込まれ、実質損益資金④=①+②+③はマイナス6,030万円になっています。

つまり、儲けた利益が、どこにどのように使われてなくなっているのか、貸借対照表では説明できなかったキャッシュフローがはっきりと説明できるのです。

損益資金が多くても実質損益資金が少ない会社やマイナスの会社は、売上仕入資金のサイト負けが大きかったり、棚卸資産に多額の資金が必要である場合が多いです。
これをわかっていないと売上拡大を図るにしても資金不足になるので、お金を事前に用意してから、売り上げの拡大をするべきです。

貸借対照表では流動資産とか流動負債という分類のため、たとえ資金がなくても流動比率が高ければ「企業格付」は高くなります。
しかし資金別貸借対照表は「資金」を見るので、いくら会社が儲けたとしてもお金が売上仕入資金のマイナスや棚卸資産に使われるとお金は会社に残りません。

実質損益資金という貸借対照表にはない項目で見ることで、資金ベースで儲けた利益がどこへ消えたかを知ることができます。
ちなみに、損益資金がマイナスの会社や少ない会社は、そもそも借入金の返済原資である損益資金を稼げていないので、銀行がいくら低利で貸すからと言ってきても長期的に資金を固定する設備投資をしてはいけないのが、資金の原理、原則です。

さらに固定資金の運用3億6,880万円⑥により正味損益資金はマイナス3億9,910万円(⑦=⑤+⑥)になっています。

そして 長期と短期でバランスよく借りているかを安定資金⑨で見ます。
A社は正味損益資金のマイナス約4億円⑦を長期借入金3億5,000万円⑧、短期借入金1億5,000万円⑩で資金調達しているため、安定資金⑦+⑧は、マイナス4,910万円⑨となっています。
これらより、最終的に手元に残る現預金額は1億1,510万円⑪だとわかりました。

今回の場合は、一見すると何も問題ない様にも見えますが、短期借入金1億5,000万円のほうが現預金額よりも多く、銀行から短期借入金の期日が来たので返済してくれと言われたら資金不足により倒産することとなり、極めて危険な資金の状態といえます。

(3)    財務体質を改善して理想的なB/Sをつくる

過去にいくら利益を出していても会社にお金が残っていない理由を資金別貸借対照表は教えてくれます。
経営の究極の目的は、資金を増やすことです。資金の蓄積とは、借入金残高が減り、現預金が増えることです。

A社では今後売上仕入資金のサイト負けを少なくするために手形を現金で払ってくれるお客様や回収期間を1ヵ月短くしてくれるお客様には1%~2%の割引をして、1億円の改善をします。さらに棚卸資産の回転期間を1ヵ月短くして6,000万円の改善をします。

この対策により、1億6,000万円の改善ができれば実質損益資金はマイナス約6,000万円からプラス1億円に改善できます。このような体質に改善できれば、儲けた利益がお金で残ることになります。
この実質損益資金で改善された、1億6,000万円を短期借入金1億5千万円の返済に当てれば短期借入金はゼロになり、預金が1,000万円増えます。

さらに「持たざる経営」をするために、土地、建物を売却します。
仮に簿価2億円として時価が1億円なら、1億円の売却損で節税ができるうえに1億円の資金調達ができるので、長期借入金を1億円返済すれば月々の借入金返済額を大幅に減少することができ、キャッシュフローが改善されます。
土地、建物の売却先は、外部ではなく不動産管理会社を設立する方法を勧めています。

改善前は預金1億1,510万円<借入金5億円が、改善後は預金1億2,510万円<借入金2億5,000万円になり、2億6,000万円改善されます。
さらに今後5年間位で損益資金の増加で預金を1億2,500万円増やすか、借入金を1億2,500万円減らせば預金=借入金になり、実質無借金になります。

無理をした売上や利益の拡大は、かえって資金不足を招き、財務体質を悪化させ、倒産しかねません。
資金別貸借対照表を使って資金の改善をすれば、売上や利益を拡大しなくても財務体質を改善できます。

4. まとめ

小さな会社のための「財務の教科書」というタイトルで4回連載しました。
国税庁の調査では、設立して10年で生き残っている会社は100社中8社です。
小さな会社や設立間もない会社が倒産するのは儲け方が上手ではないのと資金のことがわかっていないからです。

経営者が財務をわかるということは、会社の無駄がなくなるということです。
社員の失敗で会社が潰れるということはありません。
会社を潰すのは、経営者の失敗です。
経営者がお金の儲け方、お金の残し方、そして儲けた利益の社員への分配の仕方を学べば、社長は社員から尊敬され、感謝されるようになります。

小さな会社の会社経営の目的は大きくなることではありません。
社員と家族を守り、会社をとりまく全ての利害関係者を幸せにすることです。
社長業ほどやりがいのある職業はありません。

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古田土 満(こだと みつる) /税理士法人古田土会計 代表社員

執筆者紹介文:

1952年生まれ
1976年3月 法政大学経営学部卒
公認会計士・税理士
税理士法人古田土会計代表社員
日本で一番大切にしたい会社大賞 審査委員
中小企業庁 はばたく中小企業300社 審査委員
茨城県那珂市ふるさと大使

監査法人を経て、昭和58年1月独立。現在220名の税理士法人古田土会計の代表社員。
開業以来35年連続増収で赤字は一度もなく、営業なしの口コミだけで年間150件以上の新規開拓を続けている。
税理士業界では注目の会計士で、商工会議所、銀行等各種団体の講演多数。
また全国の同業者である公認会計士、税理士にも経営の手法も指導している。


主な著書
・ 『社員100人までの会社の「社長の仕事」』  かんき出版 2015年
・ 『経営計画は利益を最初に決めなさい!』  あさ出版 2017年
・ 『ダントツ人気の会計士が社長に伝えたい 小さな会社の財務コレだけ!』  日経BP社 2017年


問い合わせ先 Email : info@kodato.com
TEL  : 03-3675-4932
URL : https://www.kodato.com/

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