1. 新商品開発
  2. 2018.10.10

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第8回)
最初の「座組み」が、肝心になる!(一般財団法人沖縄県セルプセンター)


パッションフルーツバター、練島唐辛子……。どちらも手のひらにすっぽりと収まって隠れてしまうほど、ごくごく小さな瓶に入っています。

とても小さい、そして値段は高い。前者は内容量わずか40グラムで604円。後者は30グラムで702円もします。

さらに……商品名からもう想像がつくかと思いますが、これらは沖縄の土産商品なんです。なのに、よくあるような「真っ青な空」「真っ赤なハイビスカス」といった派手なパッケージデザインではない。
白にベージュというアースカラーの配色に徹したパッケージです。

そして言うまでもない話ですが、口にして美味しい。小さなサイズですから、親しい友人に土産として気軽に渡せもします。

これ、「琉Q(ルキュー)」というシリーズ商品で、2012年にプロジェクトがスタート。那覇空港の売店でも取り扱われているなど、流通系企業からの引き合いが相次ぎ、しばしば品切れ状態を起こしています。

「琉Q」については、私、3つの「常識破り」があると感じています。


①福祉と広告業界の協業

②官と民の息があった事業
③一見、沖縄では珍しいパッケージ(これは先ほどお伝えしましたね)

そうなんです。この「琉Q」は、沖縄における官民連携、それも福祉発の商品開発プロジェクトです。沖縄県の外郭団体で、県内の福祉施設を取りまとめている、沖縄県セルプセンターが発売元となっています。

いまや、福祉施設が売る商品には、かつてでは考えられないような洒脱なものが増えてきていて、驚かされます。ただし、個別の福祉施設発のものが多く、この「琉Q」のように複数の施設を束ねて進められるプロジェクトは、まださほど見られない。

「琉Q」のプロジェクトの取材から、私はいくつもの学びを得ました。

福祉発なのに、なぜ高い?

プロジェクトは、沖縄県セルプセンターに勤める、ひとりの女性職員の疑問から始まったといいます。

「福祉施設が販売する商品は、これでいいのか」

クッキー、あるいは石鹸など……家庭で作ってしまえるようなものの延長にしかない商品が残念ながら多かった。福祉施設は商品づくりのプロではありませんから、どうしても強い発想が生まれづらいわけです。

でも、それではせっかく商品を作っても売れません。


売れないとどんな問題が生じるか。福祉施設がつくる商品には、施設の利用者(障がい者の方など)が作業の訓練をなせるという意味、そして、その利用者に作業料を支払う原資を得るという意味があります。
ただし、ものが売れなかったら、利用者の励みにもならないし、作業量も確保できなくなります。


ならば、どうするか。

消費者が欲しいと感じるような、魅力にあふれた商品をつくるしかない。売れれば、施設の利用者のモチベーションも上昇します。
しかしそれを果たすには、沖縄県セルプセンターだけの力では難しい。


沖縄県セルプセンターは、地元の広告会社である沖縄広告に協力を求めます。そして、その目標を、こう据えました。福祉施設単体でつくるのではなく、地域の施設共通の統一ブランド化をなして、複数の施設が参画できるようにする……。

1つの原則と、3つのルールを決めた

もともと広告会社というのは、福祉の世界に詳しいとは限りません。

沖縄広告の担当者は、まず、福祉の勉強を重ねたといいます。そして、1つの原則を決めました。

「商品の価格は、高く設定する」

それはなぜか。
商品の中身は食のプロにつくってもらう一方で、施設の利用者がラベル付けなどのパッケージングの作業に携わるわけですが、そうした利用者に支払う作業料をしっかりと確保するには、商品の価格を高めに設定せねば、という話です。

福祉発の商品である限り、そこは何をおいても外せない。


次に、具体的な商品開発のうえで、沖縄広告は3つのルールを定めました。
まず、沖縄産のものを使うこと。次に、できるだけ無添加でつくること。
最後は、日常を逸脱しないこと。


3つ目の項目がうまいなあ、と私は思いました。

話題性狙いで何か奇抜なものをつくっても、消費者はそうした浅ましさを見抜きます。だったら、消費者の日常のなかにすんなりと溶け込む商品をものにして、じわじわとリピート買いへと誘うほうが賢明、ということですね。
この3つ目の項目は、商品ラインナップを考えるうえで、大きな指針になったようです。


パッケージをあえて地味に思えるようなデザインにしたのは、どうしてなのでしょう。

「沖縄って、本当は“くもりの島”なんですよ」

地元の人は、青い空、真っ赤なハイビスカスばかりを見ているわけではない。
いや、むしろくもった空の日が少なくないらしい。そうした“本当の沖縄の景色”をパッケージにこめたくて、アースカラーに徹するデザインを採用したのだそうです。


迷いはなかったんでしょうか。

「ぐっと、こらえたところはありますね」

赤いハイビスカスを配して、やっぱり派手なデザインにしようか、とは、広告会社だけに何度も思ったとのこと。商品の視認性も高まりますしね。

でもそのたびに「踏みとどまりました」。それをやってしまっては、「本当の沖縄を表現する」「日常のなかに溶け込ませる」という、最初に考えたコンセプトから外れてしまうからです。


それにもうひとつ。福祉の世界からの商品だからこそ、デザインの視点が必要、という判断もあった。
沖縄を旅する消費者が「何、これ?」と立ち止まってくれる意外性こそが、商品の売り上げに結びつきます。そのことで、福祉施設の利用者に支払う作業料も賄えるわけですから。

「座組み」とは、3つの約束

こうしてできあがった「琉Q」は、冒頭でお伝えしたように、福祉発でありながら、民間事業者発の商品のなかにしっかりと割って入るほどの存在感を放っています。販売実績も積み重ねられました。

で、ここで思うわけです。

行政と民間事業者が一緒に何かをなす、いわゆる官民連携型の商品開発プロジェクトを、これまで私はいくつも目にしてきましたが、実は必ずしもうまくいっていない事例も少なくないんです。

行政と民間の温度差があらわになって立ち行かなくなったり、ひどい場合にはハシゴを突然外されてしまって民間側が排除されたり……。
「行政側が『何かを初めて、すぐにやめてしまう』を繰り返したあげく、民間側が嫌気をさしてしまうケースがしばしばなんです」と指摘するのは、別の県で官民連携プロジェクトに携わってきた、当の行政側の幹部職員です。

ではどうして、「琉Q」は成功を見たのか。

取材を通して私が感じたのは、最初の「座組み」がしっかりとなされていた、という点でした。

座組みとは何か。私は、次の3つの約束を交わす作業と思います。


 ①何を達成するかの約束

 ②達成するための予算の約束
 ③誰が責任を持って進めるかの約束

いや、そんなの当たり前の話じゃないか、それを最初に決めなくてどうする、と感じられるかもしれませんが、地域における官民連携のプロジェクトではどうもこの3つの約束をないがしろにしているケースが以外と多い、というのが、ここまで各地を巡ってきた私の印象です。
後になって泣きを見ている民間事業者の姿を、私はこの目で何度も見てきました。

「琉Q」では、ここがきちんとしていました。

沖縄県セルプセンターは、県(本庁)に対して予算折衝と運営に関する説明に責任を持ち、さらに県内の各福祉施設の説得にも当たりました。

福祉施設からは「広告会社の側は、福祉のことを分かっているのか」という声も上がったそうです。それを「いえ、こうした商品プロジェクトこそ必要なんです」と粘り強く折衝したのは、沖縄県セルプセンターの職員でした。
福祉施設も変わらなければいけない時代なんです、と。

その一方で、沖縄県セルプセンターは、商品のコンセプトワークや生産体制、プロモーションについては、沖縄広告の担当者に委ねたといいます。
そこには口を挟まなかった。それは「沖縄県セルプセンターは商品のプロではない。プロの力を借りるからには、そこはお任せしないといけない」と考えたからだそうです。

福祉と広告。それぞれのジャンルのプロが、それぞれの領域を尊重したうえで、座組みをしっかりとなしたからこそ、「琉Q」はうまく展開できたのだと、私は思います。

施設の利用者にも張り合いが出た

沖縄広告の担当者はいいます。

「こうした商品って、沖縄には今までなかったんです」

青い空、赤いハイビスカスといった、よくあるデザインを用いなくても、沖縄を表現できたこと。そしてなにより、福祉の世界に新たなビジネスモデルを採用できたこと。

福祉施設の利用者にも、張り合いが生まれました。
ただ単に、作業料をきちんともらえるというだけではなくて、空港で売られている商品に関われた、こんなに洒脱な商品のパッケージング作業に携われた、という嬉しさもそこにはありました。


座組みをきちんとなしたことで、民間事業者は行政からハシゴを外される不安を払拭でき、福祉施設の利用者や職員の意欲は高まり、そして県の外郭団体はひとつの新しいモデルを創出できた。
一般消費者にしてみれば、これまでにない魅力を感じる沖縄土産を手に取れる。


いいことづくめじゃないですか。

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北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

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