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  3. 2018.10.22

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第9回)
「コモディティ化」に打ち勝つ手立て!(株式会社益基樹脂)


せっかく培ってきた技術がさほど評価されず、購入するお客は価格面によってだけ、ただただ1円でも安い商品を選ぶ、という局面に陥ってしまうことがありますね。

「コモディティ化」と呼ばれる現象がまさにそれです。ある商品分野で、技術開発の競争が行き着くところまで行ってしまって、消費者にすれば、あとはもう安けりゃいい、どうせ性能の差なんてないんだから……と捉えられてしまう状況。

商品特性で差をつけようとしても、ライバル他社も似たような技術を持っていますから、結局は、はっきりとした違いを打ち出せない。
そうなると安値合戦へと、さらに巻き込まれる。こうなると、もはや新商品の開発に割けるような余力は目減りしますし、消費者から見れば、購入意欲は薄れていきます。だって、「どれを買ったって一緒」なわけですから。


手立てはないのでしょうか。

ひとつの好事例がありました。それも、コモディティ化の最たる分野とも言えそうな樹脂製の生活雑貨分野の話です。

樹脂製の商品なんて、それこそ100円ショップなどでたやすく入手できますし、差別化したうえで、相応の価格を付けられるのか。また、付けたところで売れるのか、と思うじゃないですか。

今回お伝えするのは、アクリル製のコースター、グラスやカップの下に敷く、丸いあれです。天然木でも金属でもないアクリルを使っていて、値段はいくら?

1枚864円。けっこうな値段がするでしょう。これ、埼玉に本社のある益基樹脂が、2016年の秋に発売した「toumei 箔コースター」という商品です。

この値付けながら、当初見込みの5倍もの売れ行きを示していると聞きました。

次の一歩へ、いち早く…

同社はもともと、樹脂加工の技術を生かした店舗ディスプレイなどの製作に携わってきた会社です。長年、やれることはやり尽くし、それでも競争は激化するばかり。

ならばどうするか。「toumei」というオリジナルブランドを立ち上げました。長年の技術を生かして、消費者向けの生活雑貨の企画、製造、販売に乗り出します。

そのブランドの基幹商品となっているのが、「toumei 箔コースター」です。ただし、開発当初は、社の内外からいろんな声が届いたといいます。
「アクリルのコースターなんて、売れるのか」

さらには、商品化の後にも、流通関連のバイヤーからは……。
「でもこれ、アクリルなんでしょ」

つまりアクリルなど、コモディティ化の象徴のような存在だけに、1枚800円を超えるコースターを作って売るなんて無謀だ、という話なわけです。

これをどう跳ね返したのか。担当者の言葉には、膝を打ちましたね。

「考えてみてほしいのですが、アクリルって、そもそも高級素材なんですよ」

そうでした。人工の樹脂だからと、なんとなく安いイメージを抱いていましたが、よくよく見れば、高級素材に違いない。

その「そもそも高級素材」であるという点を、どのように改めて訴求するか。そこが開発での勝負となったようです。
伝わらなければ何も始まりません。コモディティ化に呑み込まれるだけです。

12の模様、手押しの箔

まず、円形のアクリル板の表面に、マット加工を施すことを決めました。ぎらぎらと光を反射してしまっては、アクリルの質感を感じてもらいにくくなるからです。

次に、渋い金色をしたアルミの箔を使って、模様をデザインしました。デザイナーによる手描きの線を大事にしながら、模様を再現したそうです。
「朝顔」「わたげ」「あみど」など、12のバリエーションがあり、どれも可憐でありつつ、媚びのない、思い切りのいいデザインです。


アルミの箔は、1枚ずつ手押し機でアクリル板に圧着します。大掛かりな装置を導入するには生産コストの問題もあったのでしょうし、また、手押しのほうがむしろ雰囲気が出る(1枚ごと、微妙に模様の表情が変わる)という利点も、そこにはありました。

そうしてできあがった「toumei 箔コースター」は、透け感のとても美しい1枚になりました。
グラスやカップを置くだけでなく、例えば上生菓子をそのまま載せても良さそうです。使い手の想像力(創造力)が刺激されそうな商品、と言ってもいい。


こう見ていくと、当初見通しの5倍の売れ行きというのも理解できます。

アクリルの持ち味を生かし切る

この商品が発売された2016年当時は、木などの天然素材の持つ、ほっこりとした素材感が持て囃されていた時期でもありました。
そこにまたなぜ、あえてアクリルのコースターを?

「このコースターのようなアート的アプローチを取るには、天然素材よりもアクリルのほうが向いているという確信がありました」

同社の足許にある樹脂加工の技術を生かし、また、アクリルならではの持ち味を生かそうともした。そこが1枚864円のコースターでありながら受け入れられた要因でしょうね。

開発している担当者本人が、アクリルなんて……と思い込んでいたら、この成功はなかったと思います。

それにしても、です。どうして、そもそも高級素材だったはずのアクリルが、このコースターの登場までは、さほど再注目を浴びないままだったのでしょう。

「アクリル素材を使っても、商品自体をもっと安く、という方向に流れ過ぎていた」

と、担当者は分析します。また、加工の仕方にも問題があり、本来の素材感や透け感を殺してしまうような商品も少なくなかったらしい。
ちなみに「アクリルは手をかけすぎると、持ち味が死にますね」。アクリルのイメージ悪化、そして、それによるコモディティ化は、結局のところ、少なからぬ作り手自身が招いていたものだと理解できます。

脱コモディティ化は、包みひとつからも

あとひとつ、見逃せないのは、「toumei 箔コースター」の商品化にあたっては、このコースターの包装にも心を砕いた点にあります。

このページ冒頭の画像を、いまいちどご覧ください。
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シンプルながら洒脱な包装を凝らしていますね。


高値を付ける商品であれば、パッケージもそれ相応でないと、コモディティ化からは脱せられない。
こうした細部にも注意を払うことが必要と感じさせました。包装の参考にしたのは、和菓子屋さんの包みだったそうです。


やるからには、そこまで丁寧になさねば、ということですね。

「この素材で高い値段はもらえない」と決めてかかるのではなく、「この素材の本当の特性を十二分に生かし切れば、消費者は振り向く」。

自社が携わる商品領域の本来の価値を見直すところから、次の一手は始まるのかもしれません。

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北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

Introduction

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