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  3. 2018.11.21

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第11回)
「違和感」を見逃さないのが勝負の第一歩!(株式会社百姓庵)


今回は、商品の画像を載せるのを少し後回しにさせてください。理由はのちほど。

昔ながらの製法で塩を作っているところは、現在、全国各地に300カ所ほどあるといわれています。海水を汲み上げて、光と風の力で塩分濃度を高め、さらに釜で炊いて結晶化するという方法の塩……。

約300カ所で作られている、そうした塩ですが、大々的なヒットといえるほどの商品はさほどありませんね。生産量がどうしても限られるので、各地域で地道に販売されているものが多いのです。

で、今回取り上げる塩なのですが……。本州の日本海側のほぼ最北西端、山口県長門市の油谷湾に拠点を構える百姓庵が作っている「百姓の塩」です。この油谷湾は、塩作りに適した汽水域。森から流れ込む淡水と、美しい湾の海水が混じり合い、ミネラルの種類が実に多いのですね。

この「百姓の塩」は、2007年の販売開始で、ここまでの10年強の間に売り上げは10倍に伸びていると聞きます。取扱店舗は100を超え、東京・銀座の「GINZA SIX」でも購入できます。
しかも、塩という日常的な商品ながら、注文しても1カ月待ちを覚悟しないといけない状況がしばしば。ご夫婦で営む小さな塩作り拠点の塩としては、そのすべてが異例のヒット現象であると感じられます。

でも、異例なのはむしろここからの話なんです。それは、なぜここまでのヒットを遂げたのかを解くカギともいえる部分。

実は、この「百姓の塩」には、4つの商品があります。4つ……なんだと思いますか。
内容量の違い?確かに100g、180gといったふうにサイズのラインナップはありますけれど、その話ではない。
フレーバーをつけた塩がある? それもあります。「ジンジャーソルト」のように。でも、それをここで伝えたいのではありません。

答えは、次の画像を見ればお分かりいただけると思います。

確かに味が、4つで違う!

「春」「夏」「秋」「冬」。

なんだ、これは……。そうなんです。四季それぞれの塩を商品化しているという話です。

画像の商品は「百姓の塩 四季を味わう塩」で、季節ごとの塩が80gずつ入っていて、値段は4320円。
けっこう立派な値段ですが、2017年の四季版のセットは早々に売り切れました。現在は、春、夏……と個別の季節の塩の単品が、それぞれ180g955円で販売されています。

塩に季節の違いなどあるのか。それがですね、実際に私、購入して口にしてみましたが、違いは見事にあるんですよ。

春塩は海藻が一気に育つ時季の海水から作られているからでしょう、天然のダシが利いているかのような味で、例えば潮汁に入れると抜群の出来映えになります。夏塩はパンチが効いていて、ステーキ肉にぶっかけたくなる。
秋塩はバランスが良く、これで新米の塩むすびにしたい感じ。そして冬塩はパウダースノーを思わせるさらさらの結晶で、味も穏やかです。私はこの冬塩をグラスにつけて、カクテルのソルティドッグに使いました。

季節ごとの塩をこうして商品化している事例、私は他には知りませんし、当の百姓庵に尋ねても、他では見たことがないそうです。

驚きました。塩にも旬というものがあったのですね。
それにしても、なぜ、四季の塩を作った?そして、なぜ、他の塩屋さんは四季の塩を商品化していない?

商品化するまでに、5年間悩んだ

百姓庵のご主人はいいます。

「塩を作り始めてから、『四季』に分けた商品化に踏み切るまで、5年ほど悩みましたね」

どういうことか。

「最初の一年、塩を作り続けるなかで気づきました。春夏秋冬と仕込む時季によって、明らかに塩の味が異なるんです」

でも、すぐに四季の塩として、それぞれを分けて売り出すことには大きな躊躇があったそうです。それはそうでしょう。経営上のリスクが大きすぎます。

まず、消費者が本当に四季の味の違いを感じてくれるか。商品の説明が必要にもなってきます。
次に、季節ごとの在庫管理も大変です。春塩だけ売れて夏塩は全く売れない、という事態にならないとも限らない。そうなると事業運営としてはまずいでしょう。また、季節によってパッケージを変えるという細かな作業も当然必要になる。

それでも……。百姓庵は2013年に、「四季を味わう塩」の発売に打って出る決断を下しました。

「季節で味に違いがある事実を、とにかく伝えたかった」

ご主人はその一心だったと振り返ります。

私、ここで思うのですが、おそらく、約300あるといわれる全国の塩作り拠点の職人さんたちは、「季節によって塩の味は変わる」ことに気づいていたはずですよね。でも、商品化までは踏み切れなかった。ここの差が大きいわけです。

業界分野を問わず、売れる商品には、人を「びっくり」させる要素が備わっていることが多いものですが、この「びっくり」は、3つのパターンに分けられると言っていい。

1つめは「そんなバカな」。かつてのソニー「ウォークマン」、あるいは伊藤園が業界に先駆けて発売したペットボトル入り緑茶の「お~いお茶」などがそうですね。
2つめは「そこまでやるか」。例えば東京ディズニーリゾートのキャストによる接遇などがそれに当たると言えます。

そして、3つめとして私が挙げたいのは「わかっていたのに」なんです。これは、ライバル事業者が「それをやれば話題を呼ぶ」と頭では理解していても、商品化をためらってしまっている間に、他社が実行してしまうケース。
社内あるいは金融機関を説得できない、いや、説得する手間そのものを惜しんだり、リスクを恐れたりした結果、そうなってしまうことが多いとも言えそうです。百姓庵の「四季を味わう塩」など、まさに他社が「やられた」と感じたのではないでしょうか。

でも、ですよ。たとえ百姓庵が「四季を味わう塩」を販売し始めた後でも、他の塩作り事業者が追随してもよかったはずです。なのに、現時点では目立った動きは見当たらない。これってどうしてなのでしょう。

百姓庵のご主人に尋ねると、実は「四季を味わう塩」を継続して商品として成立させるには、もうひとつ、やっかいな問題があったそうなのです。
それは……。四季どころか、仕込む日によっても、塩の味は大きく変わってしまう!

マーケティングコストをどう位置付ける?

せっかく「四季の味の違い」を打ち出した塩を売り出そうと決意したのに、同じ季節のなかでも仕込む日によって味にブレが生じてしまっては、商品としての説得力が欠けてしまいます。ここにもリスクがあったのですね。

では、百姓庵はどうしたのでしょうか。

「なぜ、日によって味が異なるのかを突き止めました」

答えは出ました。どのような日に海水を汲み上げると塩の味が美味しくなるのかを探っていくと……。
雨上がりの日の海水で仕込むと、塩は安定して美味しいかったというのです。でもこれ、実は塩作りの教えからは大きく反する話、なのだそうです。

「業界全体がそうですし、実際、私自身、塩作りの師匠から『雨上がりの日には、塩作りの海水をくみ上げるな』と言われてきましたね」

なぜか。雨によって川からはたくさんの淡水が流れ込みます。そうなると、海水の塩分濃度は低くなっているわけです。そのような“薄まった海水”を使うと、塩作りの工程で、時間はかかるわ、手間は増えるわ、となります。コスト増要因となるということ。

「でも、雨上がりの海水は、塩分濃度こそ低いですが、ミネラルの種類は増えているわけですよね。淡水が多く流れ込んでいるのだから」

ここで百姓庵のご主人は、できうる限り、雨上がりの日に海水を汲み上げる体制を組むことに決めました。手間がかかることは覚悟のうえで、「四季を味わう塩」の商品水準を上げることを優先したのですね。
この話から、強く感じたことがあります。

モノを売るには、マーケティングコストがかかるのが常ですね。販売促進のために広告宣伝に投入する費用、あるいは、ときには商品価格を割り引く原資も必要になる。

しかし、中小の事業者にとって、このマーケティングコストを捻出するのは容易ではありません。さらに言えば、こうしたところにたとえ数千万円を投じても、費用対効果が上がるとは言い切れません。

その点で言えば、製造コストにお金を回せば、そのほうがむしろ効果が見えやすい局面というのがある。この「百姓の塩」の場合、季節ごとの塩を商品化することにまずコストを投じ、さらにそれを商品として成立させ続けるために再びコストをかけた(雨上がりの日にあえて海水を汲み上げるというのが、それに当たります)。

その結果……。商品そのものが「モノを言う」、そんな塩が完成したわけです。不確かな要素の残る広告宣伝にお金をかけなくても、商品自体が訴求力を持ち、クチコミに乗りやすいものとなった。

つまりは、製造コストを上げることで、マーケティングコストを大幅に削減できた、という話です。

「違和感」に潜む、ヒットの種

締めくくりに、今回の事例から学べることを改めてひとつお伝えしましょう。
それは「違和感を決して見逃してはならない」という点にあると、私は思います。

ものづくりを進めるうえで「あれっ?」と感じる場面というのは、プロであればしばしば遭遇する話であると思います。しかしながら、少なからぬ場面で、その違和感に対して頬かむりして、気づかなかったふりのままでやり過ごしてしまいがちですよね。

その「あれっ?」の中身にこそ、ヒット商品を生む種が潜んでいるのではないか……。百姓庵の事例に触れ、そう思わずにいられません。

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北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

Introduction

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