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  3. 2018.12.19

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第13回)
「なぜその事業が必要か」から次の一手を!(RISE & WIN Brewing Co.)


まず、この画像をつぶさに見ていただきたいのですが……。

高さ8mほどのファサード(正面部分)を飾っているのは、数々の古い窓枠たちです。どれも、民家などでかつて使われていた窓枠をパッチワークのように組み合わせています。要するにこれ、廃材を用いているんですよ。

ここはどこかというと、徳島県の山あいにある上勝町です。人口1500人を切った過疎の町
ですが、この上勝町の名を聞いたことがある方も少なくないと思います。
「葉っぱビジネス」で有名な町ですから。日本料理に添える「つまもの」として、葉っぱを出荷するという事業を成功させた、いわば奇跡の町。その物語は書籍だけでなく映画にもなったほどです。

この上勝町、「葉っぱビジネス」とともに、もうひとつ「ごみゼロ」を目指していることでも知られています。町にごみ収集車は存在せず、町民がごみステーションに廃棄物を持ち込み、分別作業を担う仕組み。
リサイクル率はすでに80%とか。ごみが資源になれば、おカネが入ります。それを使って若年層にも魅力ある町づくりに邁進するというのが、目指すところだそうです。

でも、ここでみなさんにお伝えしたいのは、「葉っぱビジネス」の詳細でも、「ごみゼロ」戦略を目指す町役場の活動でもないんです。
最初に触れた建物の話に戻しましょう。これ、上勝町で2015年に立ち上げられたクラフトビールのブルワリー(醸造所)であるRISE&WINの本拠地です。

なぜまた、過疎の町にブルワリーを? そして、そのプロジェクトは成功している? それが今回のテーマです。

「ごみゼロ」のシンボルを…

上勝町から県庁所在地の徳島市までは、クルマで1時間はかかる距離です。その徳島市で長年、食の安全に関する総合衛生コンサルタント業に携わっている、スペックという地元企業があります。

衛生検査やメーカーの製造工程指導などが、その主業なのですが、2000年代に入って、一次産品の生産者などから、商品そのものの開発に関する相談が入ってくるようになりました。
そして実際、地場の漁業関係者の声に応えるべく、スペック自身が、徳島市の地場産業である海苔の加工品の開発・生産・販売にまで乗り出していた、という経緯があります。

同社の奮闘ぶりを、上勝町役場が目に留めました。役場が持ちかけたのは、「ごみゼロ」の理念を何らかの形にできないか、というものでした。

2013年、スペックは、上勝町の一角に「上勝百貨店」と名付けられた小売店をオープンさせます。百貨店と名付けましたが、小さな店舗です。
パスタもスパイスもシャンプーも量り売り、というのが、この店のスタイル。つまり、「ごみゼロ」実現への一助となるのが狙いでした。

この店、県内外からの視察が引きも切りませんでした。ところが……肝心の売り上げが伸びなかったのです。掲げた旗は素晴らしかったのですが、「小さな町の、すてきな話」で終わってしまった。大半の消費者にとって、その理念は他人事だったわけです。

 ならばどうする。理念を掲げるだけではだめで、消費者が面白がってこそ、「ごみゼロ」への道は始まる。そう考えて、上勝百貨店を閉じ、その土地にブルワリーを立ち上げたそう。それが2015年の話でした。

米国ポートランドをお手本にした

このRISE&WIN、土地は上勝町からの賃貸ですが、その他の出資・運営はすべてスペックが担っています。それにしても……どうして、クラフトビールのブルワリーだったのでしょうか。
クラフトビールは確かにブームではありますが、2015年当時にはすでに各地で多数のブルワリーが開業していましたし、上勝町の「ごみゼロ」戦略との関連性も、にわかにはわかりづらいですよね。

「米国ポートランドを視察したのが、契機だったんです」

スペックの社長は、そう振り返ります。

ポートランドといえば、クラフロビールのマイクロブルワリー(小規模の醸造所)が、それこそコンビニエンスストア並みに多数存在し、その多くはビールを量り売りしているというのですね。大型のボトルを販売していて、町の人はそのボトルを購入し、あとは店を訪れるたびにそのボトルを片手に携えてやってくる……。

「町内外の人にビールを楽しんでもらいながら、『ごみゼロ』を自然と体現してもらえる」

だから、量り売りの仕組みを生かしたブルワリーに着目した、というんですね。そして、RISE&WINの建物は、冒頭で綴りましたように「ごみゼロ」を象徴するような廃材の窓枠を生かした、というわけです。

RISE&WINでは、量り売りのボトルを1本3300円で販売しています。それでも最初の1カ月で300本売れたといいます。

「町の人は、自分の水筒を持って買いに来てもくれますね」

東京にも飲食拠点を設けた

事業を継続するためには売り上げをきちんと立てることも重要ですから、量り売りの1本で展開しているわけではありません。観光客や取り寄せ客などのために一般のボトルでも販売していますし、RISE&WINの店内で、地元食材を使ったフードとともに飲むこともできます。

これだけ山深い場所にありながら、週末はもちろん、平日でも県外からの客が訪れ、開業直後から売り上げは順調に推移していったといいます。

これで、プロジェクトは一段落か? そうではありませんでした。スペックは2016年に、今度は東京・東麻布にRISE&WIN直営のビアレストランをオープンさせます。

かなり思い切った施策に思えますが……。

「この町には、時間がないんです」

どういうことか。過疎が進み、町が浮揚するための策を掲げるのは待ったなしの状態だというのですね。上勝町のことを広く知ってもらい、できれば足を運んでほしい。
そのためには、矢継ぎ早に手を打たねばならない。それが、スペック社長の強い考えだと聞きました。確かに納得できる回答です。

でも、まだ気になることがあります。ここまで、上勝町の地域振興に力を入れてしまって、本業である衛生検査部門はおろそかにならないのか。

「いやむしろ、面白いことに、衛生関連の事業の引き合いは増えています。私たち自身がブルワリーを立ち上げて運営していることから、他の新規ブルワリーから声がかかるんですね」

なるほど、それもわかりました。では、もうひとつの疑問。

上勝町の理念を形にして、町の存在を知らしめるという意味では、RISE&WINの果たしている役割は大きいと思いますが、ごく普通の消費者からすれば、肝心のビールが美味しいかどうかこそが重要ではないか。

「そこが実に大事だからこそ、米国の実力派ブルワー(ビール醸造の専門家)をしばしば上勝町にまで招いて、味のブラッシュアップを続けています」

また、社長を筆頭に、RISE&WINのスタッフがポートランドを訪れ、勉強を重ねているとも聞きました。

次の一手に選んだのは…

ブルワリーを立ち上げてから3年。この間、アジアで最も権威があるといわれるビールの鑑評会「Asia Beer Cup 2016」で入賞を果たし、2018年春からは、東京ミッドタウン日比谷のカフェ「LEXUS MEETS…HIBIYA(レクサス・ミーツ・ヒビヤ)」にLEXUSオリジナルビールを提供し始めてもいます。
また、国内で長年ビール醸造に携わってきた、ある専門家からは「こんなにきれいなIPA(インディア・ペールエール)を作れるブルワリーは、日本ではほとんどない」との言葉も得たそうです。

一定の答えを出せたという話ですね。
で、ここからです。RISE&WINは次にどう動こうと考えたか。

「バレルエイジドビール(樽熟成ビール)を作ります」

バレルエイジドビールというのは、他の酒類を寝かせていた古樽にビールを入れて熟成させ、その樽や酒の香りをビールに移すというものですね。日本ではまだ馴染みはありませんが、海外では固定ファンが付いているといいます。

これに臨む理由は2つだそうです。

「まず、古樽を生かすという考えは、上勝町の『ごみゼロ』の理念に合致します」

そしてさらにいうと……。

「今、全国各地で、ジャパニーズウイスキーの蒸溜所が増えています。そうした蒸溜所と手を携えたい、という思いも強く抱いています」

なるほどと思いました。現在、ジャパニーズウイスキーの蒸溜所は、新旧合わせて20を超えたといわれます。それぞれの蒸溜所が、その地域を元気にするという思いも込めて、ウイスキーづくりに邁進していますね。そうしたところと力を合わせたいという話。

「北から南まで、国内各地のウイスキー蒸溜所で眠っていた古樽を、ここ上勝町に集めたい。そして、その古樽でビールを熟成し、その樽をまた各地の蒸溜所に戻して、再度使ってもらって……。そうすることで、全国各地との“対話”を進めたいんです」

ここからちょっとだけ、私自身の仕事の話をすること、お許しください。RISE&WINへの取材を通してこうした意気込みを聞き、私自身が監修しているクラウドファンディングサイトの特集で、同社に参画してもらいました。「地方と地方を結びたい」という考えに、私がうなずけたからに他なりません。
https://kokubu.en-jine.com/projects/rise-and-win?afl_cd=nikkei

ぶれなかった背景にあるもの

RISE&WINの取り組みは、途中でややもすればぶれてもおかしくなかった案件であると思います。単に流行のクラフトビール事業に参入するという話だけか、東京にビアレストランまで開業するのは無謀な策ではないか、そもそもビールづくりの門外漢が手がけてうまくいくものか……。

ぶれなかったのは、「すべては過疎の町に人を呼び、八方塞がりの状況を打破する」ことがあくまでの目的である、という部分を動かさなかったから。それに尽きると感じました。

ビールの味を磨いて海外で賞を獲得すべく動いたのも、東京の話題の商業スポットでビールの取り扱いを果たせるように奮闘したのも、そしてバレルエイジドビールづくりに着手するのも、すべて「上勝町を知ってもらうため」の一助と踏まえていたようです。立脚点を決して忘れなかった。そこが重要だったのではないでしょうか。

今、RISE&WINには、町外どころか県外から、「ここで働きたい」という若い世代が集まり始めているそうです。そうした極めて大きな答えもついに導けたということですね。

新規事業を展開するうえで「なぜやるの?」「なぜ必要なの?」を自問し続けることは、とても大切という話でした。

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北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

Introduction

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