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  3. 2019.02.06

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第16回)
硬直化した組織の復活に必要な決断!(アピアショッピングセンター)


皆さんは普段、どこで買い物をなさっていますか。地方都市にお住まいの方でしたら、クルマで動くのに便利なショッピングセンターとなるでしょうか。

食料品から生活雑貨までをワンストップで購入できるショッピングセンターといえば、1970~80年代に、全国各地で一気に広がりを見せた商業施設ですね。

当時のことを振り返ると、こうしたショッピングセンター、大手資本による開業はもちろんのこと、地域の商店主たちが資金を出し合って設立する共同店舗組合の形式でも数多くオープンしています。1980年代のころには、全国で700あまりも、共同店舗組合形式のショッピングセンターが存在していたらしい。

でも……人口減少や少子化の影響、そして大手資本による施設の攻勢が続くなか、現在ではそうした共同店舗組合の形式をとるショッピングセンターは半減しているといわれます。また、残っているところでも、往時の活況を取り戻せないケースが多い、とも。

ただし、そうした極めて厳しい状況下にありながらも奮闘している地場資本のショッピングセンターを、少ないながらも見つけることはできます。大手どころのショッピングセンターに包囲されながらも、売り上げを伸ばしているとすれば、どこに理由があるのでしょうか。

今回取り上げるのは1軒のショッピングセンターの話ですが、そこから導き出される教訓はおそらく、全く異なる業種の皆さんにも糧となるものではないかと思います。
 

90年代半ばまでは順風満帆…

富山市の中心市街地からクルマで10分弱のところに、「アピアショッピングセンター」があります。1985年の開業で、先に触れた共同店舗組合形式での設立でした。時代の流れを肌で感じ取った地場の商店主たちが、資金を出し合って作り上げた商業施設です。当時の組合員(=参画した店舗数)は55を数えています。

このアピアショッピングセンター、当時としては時代を先取りする格好で、屋内プールを併設したスポーツクラブを直営で併設しました。そのことが功を奏し、富山市内のみならず県内全域から注目を集めたといいます。

開業直後からスタートダッシュに成功し、1年目である1985年の売上高は約50億円。10年後の1995年には約80億円まで伸びました。

ところが、すぐそばに大手資本の商業施設が進出し、そこから売り上げは下がり始めます。2008年には約45億円と過去最低を記録。開業年の売上高をも割り込む数字となってしまいました。

2008年といえばリーマンショックの年ですし、今触れたように、新規性を提げて進出した大手資本のショッピングセンターの影響も、もろにかぶっている状況。そういった背景もあって、アピアの社長は、このころの心境をこう振り返っています。

「『こんな状態のなかで、アピアショッピングセンターは、売上高が45億円に下がったとはいっても、むしろ頑張っているほうだよね』と業界関係者からはよく声をかけられました。それでどこか安心している側面がありましたね」

全国各地に残っていた協同組合店舗形式のショッピングセンターは、どこも厳しい局面でした。他も大変なんだから、ウチだってこんなものだろう、と考えて、その危機を正面から受け止めない空気が蔓延していたということです。

で、ここからです。売上高が過去最低となり、先が見通せない状況に陥ったなかで、アピアショッピングセンターは、それでも今そこに迫る危機に目をつむって、そのまま安閑とし続けたのか……。

今、このタイミングしかない

アピアショッピングセンターは、すんでのところで目を覚ましました。このままでは近い将来、突然に倒れてしまう、という現実を受け止めたんです。

では、どこから手をつけるべきか。組織のあり方を根本から変える決意をします。

現状維持のままでいい、変わらなくても構わない……なんとなくそう考えて硬直化してしまうのはどうしてなのか、と原因を突き詰めた結果、その組織体制に主因があったと考えるに至ったそうです。
どういうことかと言いますと、共同店舗組合の場合、何かの決議をなそうという場面で、組合員に平等に1票があるんですね。
そのため、考え方が分かれるような議決をなそうとすると、どうしても決定のスピードは落ちますし、少なからぬケースで思い切った施策提案がかき消されてしまいがちです。その結果、現状維持が続いてしまう。

「だから、共同店舗組合から株式会社に組織を改めることにしました」

開業時に55を数えた組合員は、この時点で22にまで減っていました。長引く不況、そして地場資本の商業施設に将来性を見出せないと判断した商店主が退いていったからです。

「でも、残っている組合員は、厳しい経営状況のなかでも、奮闘を続けるところばかりでした。ということは、株式会社化するには、もうまさに今しかない、と踏みました」

2011年、アピアショッピングセンターの運営母体は、株式会社化を果たしました。

適切な投資を躊躇せずに…

株式会社化し、意思決定のスピードを上げたことで、アピアショッピングセンターは、少しずつ生まれ変わっていきました。
投資、借入、販促策の実行、すべてにわたって急ピッチで判断を下した結果、成功の確度も高まっていったといいます。

例えば、建物自体の増床まで踏み切るとコストが膨らみます。なので増床はせずに、現存の売り場を効率的に改修、買い物客のための休憩スペースを増やすなど、微細な部分に心を砕く戦術を取りました。また、ダイレクトメールの打ち方も見直しました。
アピアショッピングセンターはいっとき、地方の商業施設としてはかなり早い段階で電子メールなどを用いた告知に着手していましたが、効果測定を続けると、どうも思ったより反響が弱い。そこで、あえてハガキでの告知に戻したそうです。すると、予想以上に効果が出た。

なるほど、単に先進的だから、とか、ここまで続けているのだから、という考えに囚われることなく、「進む」も「戻る」も迅速かつ適切な判断をなせるような組織運営になったといえますね。

さあ、現在はどうなったか。売上高は約55億円に復活したそうです。つまり、開業年の売り上げ水準に戻しただけでなく、さらに上積みも果たしたということ。
それも、地方の人口減少が続き、大手資本の攻勢が止まないなかで、です。これは異例の復活と表現して差し支えないでしょう。

おそらく、組織改革を実行しなければ、こうはなっていなかったでしょうね。数多の地場資本のショッピングセンターと同様に、長期低落傾向にありながらも、それを直視せずにいたのではないでしょうか。

そしてもうひとつ、ここがむしろ重要なところと思いますが、組織を見直して株式会社としたこと自体で安心してしまわなかった。ちゃんと、株式会社化によるメリットを活かす方向に動いた。
せっかく意思決定の速度が上がる形にしたのだから、と、投資も販促も矢継ぎ早に手を打ち始めたんです。

実力店がここから育った

さらに、このアピアショッピングセンターで触れずにいられない部分があります。それは、運営母体の改革に留まらず、それに歩調を合わせるように、各店舗が経営に力を注いでいる点にあります。

例えば……。ヴィンテージワインの品揃えが凄まじく、ここを拠点にしながらも、ネット販売で大都市圏のファン層をつかんでいる酒販店。
あるいは、このアピアショピングセンターの店舗だけで年間3億円を売り上げる精肉店。まだあります。

中部地方で販売額トップクラスを誇る化粧品店も、基幹店舗をここに置いています。また、アピアの社長は衣料品店の経営者でもあるのですが、その店舗はグンゼの商品売り上げで日本一を記録しているとのこと。
個別の店々が、それぞれに商品ラインナップや陳列手法で工夫を凝らし、しのぎを削っているんです。

「業界全体が厳しいから仕方ない」「似たような他の事業者よりは状況はまだマシ」と、ぬるま湯に浸かったような状況に甘んじていたなら、アピアショッピングセンターの復活劇はなかったと思います。

今回の事例はあくまで商業施設の一件であり、組織改革が功を奏した話でもありますが、私が真にお伝えしたかったのは、まさにその点です。
きっと、その他の業種においても、形こそ異なるにせよ、同じようなぬるま湯状態がややもすれば存在するのではないでしょうか。そしてそれぞれに、ぬるま湯からの脱却法があるはずです。

少し前のことですが、「『成功』の反対は『失敗』ではなく、『何もしないこと』です」と断じた中小企業の経営者に出逢ったことがあります。
今回のアピアショッピングセンターによる改革の経緯を振り返って、そのときの言葉を思い出しました。何もしなかったら、いつか突然に倒れるかもしれません。

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北村 森/商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

執筆者紹介文:

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

サンデー毎日「北村森の一生逸品」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
いばらき大使/いばらきイメージアップ大賞 審査委員

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