1. 貿易実務
  2. 2019.04.05

もし不正輸出をしてしまったらどうなる?実際にあった事例もあわせてご紹介


前回は、輸出前の事前審査や輸出許可の種類・申請方法について解説しました。では、もし事前審査や許可の申請・取得をしなかったらどうなるのでしょうか。実際に過去に起きた事例とあわせてご紹介します。

不正輸出の原因

経済産業省の調べによると、2013年4月から2018年3月の間に輸出法令違反の原因の上位3つを占めたのは「法令知識の欠如」(26%)、「社内連携ミス等の過失による見落とし」(14%)、「法令・運用の解釈誤認・変更の見落とし」(12%)だったそうです(※)。それぞれの具体的な内容について見ていきましょう。
(※経済産業省 貿易経済協力局 貿易管理部 貿易管理課「事後審査事案の傾向・事例」pp.2<https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/02_jigo/download/20180601_jigoshinsajiannokeikoujirei.pdf>)

原因その①:社内スタッフに法令知識が足りていなかった

もっとも多い法令違反の原因は、社員が輸出規制のことをよく知らないことです。規制内容をあまり把握していないがために、自社製品が規制にひっかかるかどうかをよく確認しないまま輸出してしまい、法令違反を犯してしまうのです。

「もし通関前に手続きが必要なら、税関や通関業者から何か言われるだろう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、必要な手続きを確認しなければならないのは、輸出者自身です。あとから輸出許可が必要だったことがわかっても、責任を負うのは通関業者ではなく輸出者になりますので、注意しましょう。

原因その②:うっかりミスによる見落とし 

「法令知識の欠如」の次に多いのが、うっかりミスによる見落としです。うっかりミスの代表例のひとつが、リスト規制で複数の項番に記載があることに気づかないことです。たとえば、品目名は同じ「ロボット」でも、リスト規制には2項・6項・14項に記載されています。したがって、輸出するロボットがどの項番にあてはまるのかを十分に確認することが重要です。

また、実務担当者と輸出管理の担当者が異なる場合、うまく両者で連携がとれていないこともミスの発生原因のひとつです。たとえば、輸出部門の担当者が規制対象外と判断すれば、輸出管理の担当部署へ報告や確認をすることなく輸出の手続きをしてしまうケースが見受けられます。しかし、チェックの抜け漏れをなくすためにも、実務担当と輸出管理の担当で規制にあてはまるかどうかをダブルチェックすることがとても重要です。

原因その③:法令の解釈がまちがっていた・制度の変更に気づかなかった

また、法令の内容をまちがってとらえていたり、制度の変更に気づかなかったりすることも違反原因のひとつです。たとえば、製品を一時的に海外の取引先に貸し出す場合や、一度輸入したものを修理のために再輸出する場合は、許可はいらないように見えます。しかし、その製品がリスト規制やキャッチオール規制にあてはまる場合は、貸し出しや修理のために海外へ持ち出す場合も輸出許可が必要になるのです。

また、国際情勢の変化にともなう法令・制度の変更にも要注意です。法令や制度は刻一刻と変わるため、輸出する際には必ず経済産業省のウェブサイトなどで最新情報をチェックするようにしましょう。

実際にあった不正輸出の事例

輸出法令に違反すると、「不正輸出」と認定されてしまう可能性があります。ここでは、実際に起こった不正輸出の事例を紹介します。

日用品などをシンガポール経由で北朝鮮へ輸出

平成26年、ある貿易会社が日本国内で流通している食器や食料品、衣類などを経済産業大臣の承認を受けることなくシンガポール経由で北朝鮮へ輸出していたとして、社長が逮捕されました。その後、同社は7ヶ月間の輸出禁止処分を受けています。

日本では、独自の制裁措置として北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出が一切禁止されていますが、他にも同様の事案が度々起きています。

リスト規制品目と知らずに許可なく輸出

ある加工機器メーカーが、平成19年から28年にかけてイランや中国などにジュエリー生産加工用装置を輸出していたことで、3ヶ月間の輸出禁止命令の行政処分を受けました。

その装置はリスト規制品目の「誘導炉」にあたるものでしたが、同社は輸出管理体制を構築せず、法令の正しい知識を持たないまま、経済産業大臣の許可を受けることなく輸出を繰り返していました。同社はその後、安全保障輸出管理やコンプライアンスへの取り組みを強化し、ウェブサイトでその内容を公表しています。

納品を早めたいがために繰り返し少額特例制度を悪用

ある化学メーカーの子会社が、少額特例を悪用し、不正輸出を繰り返していたとして、その子会社と同社の管理部長が刑事告発・書類送検されました。

同社は、納期を早めるためにリスト規制対象だった59万円相当の品物を複数回にわけて船積することで、少額特例の対象といつわり、不正輸出を繰り返した疑いがもたれています。その後両名とも起訴され、会社には罰金50万円、管理部長には罰金20万円の略式命令が下りました。

不正輸出したかもしれないとわかったら、必ず事後審査を!

上記のように、会社が不正輸出のために告発されると、安全保障貿易情報センター(CISTEC)のウェブサイトで企業や代表者名が実名で公表されます。そのことによる社会的な影響は決して少なくありません。もし、輸出したあとで「許可が必要だったかもしれない」などがわかったら、被害を最小限にするためにも、すみやかに「事後審査」を行うことが大切です。

事後審査って何をするもの?

事後審査とは、製品を輸出した後で「経産大臣の許可などが必要だったかもしれない」とわかったときに、事実解明や再発防止のために行われる審査のことです。不正輸出の可能性のある製品と同じような製品を再度輸出するときには、安全保障貿易検査官室に事前に問い合わせることが必要です。

事後審査の流れについて

事後審査は次のような流れで行われます。

①通報
不正輸出をしたかもしれないことが明らかになったら、できるだけ早く経済産業省に通報します。通報は第三者や行政機関からなされることもあります。通報とあわせて、輸出入者や貨物の内容について説明も行います。

②事実調査
不正輸出が起きた経緯や原因などを書いた書類を提出し、経済産業省の事情聴収を受けます。場合によっては立入検査を受けることもあります。

③再発防止策の策定
調査をして輸出法令違反にあたると判断されれば、輸出入管理体制の整備への取り組みなど再発防止策を策定します。また、過去3年間に法令違反がなかったかどうかの調査も行うことになります。

④処分の決定
違反の程度や再発の可能性、事後審査に協力する姿勢などをすべて考慮したうえで、処分が決定されます。その結果、行政処分などを課される可能性もあります。

不正輸出により刑事罰・行政制裁を受けることも

事後審査の結果、輸出法令違反となれば、会社や代表者、輸出部門の責任者などが以下のような制裁を受ける可能性があります。

<刑事罰>
刑事告発を受けると、以下のような刑事罰が科されます。刑事罰を受けるときは、懲役刑だけ・罰金刑だけでなく、両方が科されることもめずらしくありません。

<行政制裁>
最大で3年以下の輸出や技術提供の禁止が命じられます。

社会的な影響も少なくない

不正輸出が発覚すれば、企業名や代表者名などの実名が公表されるため、少なからず社会的な影響を及ぼします。

たとえば、企業やブランドに対するイメージダウンや、売上の減少、主要取引先の取引停止などが生じることが考えられます。また、上場企業であれば、株主訴訟を起こされる可能性もあるでしょう。それらが相まって、会社の経営が傾くこともありえます。このような不利益を防ぐためにも、輸出法令をきちんと守って輸出や技術提供を行うことが重要なのです。

輸出手続きをするときに、「自社の製品はリスト規制やキャッチオール規制の対象にはならないだろう」「輸出するのはごく少量だから規制は関係ないはずだ」などと漫然と構えていると、あとから違反を指摘されて思わぬ不利益を受けるかもしれません。

輸出の際には、自社の製品や技術が規制対象であるかどうか、慎重に確認するようにしましょう。
 

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あさきみえ

執筆者紹介文:

大阪府枚方市出身。立命館大学法学部卒業。
学生時代は国際法や国際政治学を中心に学ぶ。

卒業後は、NVOCC(自らは国際輸送手段を持たない貨物利用運送事業者)にて、通関書類の作成や港にある倉庫とのスケジュール調整、D/Rのチェック、原産地証明書をはじめとする各種証明書や海上保険の手配、船会社との海上運賃交渉など、輸出業務全般に従事。途中、主要取引先だった大手専門商社の海外事業部で駐在員として勤務した経験も持つ。

その後いくつか事務職を経てライターとして独立。現在、貿易・ビジネス・法律・経営などの分野を中心に、今まで執筆してきた記事数は1000本以上。記事の企画の立案から執筆・校正まで、幅広く手掛けている。

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